自然科学の知を統合して新しい分野を開拓する人材を養成する

理系新学科 統合自然科学科

統合自然科学科では、さまざまな学問領域を自由に越境・横断することにより、多様な自然科学の知を統合し、新たな領域を開拓できる人材の養成を目指します。また同時に、広い分野での活躍を裏づける高い専門性と、幅広く豊かな知性を兼ね備えた真の「自然科学教養人」を育成します。本学科は、「数理自然科学」、「物質基礎科学」、「統合生命科学」、「認知行動科学」の4つのコースと「スポーツ科学サブコース」で構成される、柔軟で多様な選択が可能な教育システムです(図1)。そこでは、自然の数理的構造を探求する数理科学、原子から生体物質まで広く物質の真理を追求する物質科学、生体と生命現象の本質に迫る生命科学、人間・動物などの個体や集団が研究対象の認知行動科学、さらにはスポーツ科学まで、深さと奥行きと広がりをもつ多彩な科学の世界を、学生自身の選択に応じて、系統的に広く、あるいは専門的に深く、自由なスタイルで学ぶことができます。一方、教養学部の他学科との強く柔軟な連携を通じて、より広がりのある学問分野での発展的な学習も可能にしています。

図1

図1
統合自然科学科 5つのコース群からなる先進の教育プログラム

図1

図2
時間軸のフレキシビリティー
(クリックで拡大します)

自然科学知を統合する
教養学部後期課程では、学問分野の垣根を低くした先進的なリベラルアーツ教育を目指しています。その中で、新たに発足した理系学科である統合自然科学科は、駒場キャンパスの数理、物理、化学、生物、認知、身体運動の研究分野の第一線で活躍する教員が結集し、コンパクトな駒場キャンパスで極めて幅広い学問分野の教育プログラムを提供する東大唯一の学科です。

次世代を背負って立つみなさんには、1つの専門性を深く極めることに加えて、それ以外の分野についての幅広い知識、さらに社会の営みと科学の関わりの理解、分野や国境などの枠組みにとらわれない行動力が以前にも増して求められています。このことは、リベラルアーツ教育を目指す教養学部の人材育成の理念と完全に合致しています。統合自然科学科に進学希望のみなさんには、まず自らが深めたい専門性を進学振り分け時に決めていただきます。本学科では、そのために、数理自然科学コース(定数9名)、物質基礎科学コース(定数20名)、統合生命科学コース(定数20名)、認知行動科学コース(定数8名)とスポーツ科学サブコースを用意しています。ここには、理学部などで提供されるほとんどの教育内容が含まれており、駒場キャンパスには、先端のサイエンス研究を行っている、いわばもう1つの理学部という側面があります。

ただし、駒場キャンパスに単にもう1つの理科系の学部が存在しているわけでは決してありません。統合自然科学科では、昨今よく耳にする「境界領域の科学」からさらに一歩進んで、学問領域を自由に越境、横断し、「自然科学知をインテグレイト(統合)する」次世代研究者の養成を目指しています。また、アカデミック界だけにとどまらず、深い専門性と幅広く豊かな知性を有する自然科学的教養人を育成することで、社会の諸分野で活躍する人材を送り出します。現代の先端科学では、極めて細目化した専門の最先端に進もうとすれば、他分野からのヒント、インスピレーションを生かし、さらには、理論面、技術面での融合と統合を行う能力が強く求められます。みなさんが将来専門を極め、ある分野の最先端にいたったとき、もしその統合する力を発揮できるならば、真の革新の原動力となって行くことができるでしょう。また、社会のニーズの多様化と現代科学が取り扱う内容の拡大にともなって、今日の学生にとっては、どのような動機や文脈で講義、実験、演習を履修するかが以前と比べ多様化し、異なってきています。そのために、深い専門性を学ぶ講義群が幅広いスペクトルにわたって準備されているとともに、講義や演習の選択、単位取得のタイミングにもフレキシビリティが求められています(図2)

このような時代の要請を踏まえ、次世代の理系人間育成のための教育カリキュラムと履修制度を今回大幅に見直し、教養学部の理系学科は「統合自然科学科」として新たなスタートを切りました。日本国内はもちろん、海外でもあまり類をみない、先進的でユニークな教育プログラムです。統合自然科学科の各コース間の垣根は低く設定してあり、数理、物質、生命、認知、身体に関する基本的知識を習得するとともに、複数の分野にまたがる専門的知識を獲得することを可能にしています。加えて、教養学部他学科との強く柔軟な連携により、さらに広い分野の習得が可能になりました。これから進学する東大生のみなさんには、この大きなチャンスをぜひとも活かしていただきたいと思います。

自分のユニークな専門性を編み上げる
統合自然科学科では、物理なら物理、化学なら化学、生物なら生物といったように、従来からの専門分野を極めたい学生にとって充実した講義群、演習群を提供しています。そういった皆さんには、興味があれば余力の一部だけでよいので他の分野の学習にも向けることを奨励しています。一方で、学生によっては、例えば学部2年生の後半から物理学または化学の専門性を深めていった結果、3年生の後半から4年生にかけて探究心のベクトルが生命科学に向く者もいるでしょう。また、認知科学の研究を目指しているけれども、それに必要な数学の基礎を固めながら履修したい学生などもいるでしょう。このように、学生それぞれの興味や履修内容はユニークであってよいものです(図2)。そこで、統合自然科学科では、所属するコースによって多少の制限はありますが、自由度の高いカリキュラム設計で、大まかに専門性追求型、分野横断型、副専攻型の履修プランを提案しています(図3)

カリキュラムは、学科共通科目、専門科目、卒業研究から成り、学生は卒業のために84単位以上を習得する必要があります。まず、進学された4学期には学科共通科目として開講されるコミュニケーションやプレゼンテーション能力を高める講義(Advanced ALESSなど)や、専門への導入的な講義を通して、各コースの内容を把握するとともに、どの進路に進んでも基本的な力量が役に立つようにするための科目群を受講します。ここでは、統合自然科学リテラシーの習得を目的とし、10単位以上を修得します(図4)

5学期からは、いよいよ所属コースに応じて、専門的な内容を含む講義をはじめ、自然科学の理解に必要となる演習・実験、少人数によるセミナーに参加し、各自の勉強計画にしたがって科目を選択します。ここで、各自の専門性を深めるために、所属するコースで指定されている専門科目群と選択科目からそれぞれ33単位ずつ取得することが求められます。また、それ以外の選択科目のうち16単位は、他コース科目に割り当てられていますが、これらの指定以外の単位は、他学科科目、他学部科目(単位数の制限有り)の中から履修できますので、専門性追求型と分野横断型の履修プランのいずれにも対応できる設計となっています。また、副専攻型の履修プランを指向する学生は、上記の単位のなかで、1つ特定の他コースの科目群(スポーツ科学サブコースに開設の科目群を含む)から、任意の科目を副専攻科目として24単位以上習得すると、主専攻のほかに副専攻を修得した旨を学科として認定します。このことは卒業成績証明書に記載されます(例 数理自然科学専攻 統合生命科学副専攻)。また、当学科設置の科目を計画的に履修し、加えて所定の基礎科目、教職に関する科目を履修することで、中学校・高等学校の数学または理科の教員免許を取得することができます。

4年生になると、学生は、研究テーマに応じて、履修前提条件を満たすことにより、所属するコースを越えて卒業研究を行う研究室を選択することができます。ここでは、学問領域に応じて、各コースで実施の考え方や方法に自由度を持たせています。例えば、物質基礎科学コースに進んだ上で、卒業研究を生物科学系の研究室で行うことができます。卒業研究は10単位です。

卒業後の進路について
統合自然科学科の前身である基礎科学科と生命認知科学科の卒業生の多くは、専門的な科学・技術分野における研究者を目指すため大学院総合文化研究科の広域科学専攻に進学し、駒場ならではのユニークな最先端研究の現場で専門テーマを探求しています。研究者以外にも、科学技術政策や理科系教育の行政職、科学ジャーナリスト、科学インタープリター等、社会と科学を結ぶ職業人等、高度な自然科学的教養人の育成も目指しています。教養学部後期課程における理系教育の特色を、余すところなく発揮して活躍する人材を、アカデミック界、産業界、行政・マスコミ等に実際にこれまでにも数多く輩出しています。今回の学科再編は、その良さをしっかり受け継ぎ、さらに磨きをかけていきます。


数理自然科学コース

本コースでは、様々な数理的概念の理解を深めるとともに、広く自然現象の背後にある数理的構造を学びます。そして、自然科学を統合的に理解しようとする動機のもとで学んだ高度な数理的考えや手法を様々な分野に生かせるようにします。自然科学は、現在、物理、化学、生物のように分けられていますが、本来、自然現象そのものにこのような分類はありません。特に、現象の背後にある数理的側面に着目するとき、対象の個々の性質が関係なくなることもあります。そして、多様な自然現象を理解しようとする営みから新しい数学の問題が生まれることもあります。このような状況を踏まえて、数理自然コースのカリキュラムは作られています。具体的には、物理、化学、生物の自然科学に関しては、各人の嗜好に応じて、必要なことは完全に習得できるようになっています。数学については、数理科学研究科の教員によって、演習つきで徹底した授業が行われます。


物質基礎科学コース

今日の科学技術社会は、我々自身やその周辺を構成する物質世界の仕組みを自然科学的に理解し、利用することで成り立っています。今日では、物質科学に対する社会の要求も益々高度化かつ多様化し、既成のカテゴリーの教育を受けた者ではそれらに適切に応えられなくなっています。統合自然科学科の物質基礎科学コースは、原子、分子、高分子、結晶、生体等の様々な階層の物質・材料の物理学や化学を、学生諸君の志向に応じて、深く、且つ広く学び、物質世界に対する現代のニーズに対応できる人材を育成します。従来の物性物理学、原子核・素粒子物理学、物理化学、有機化学、無機化学等の分野を全てカバーする充実の教育プログラムに加え、それらの境界領域に位置する新科目も用意しました。物理学、化学、いずれの志向の学生諸君の希望も十分かなえられるだけでなく、領域横断的プログラムの習得で、他の諸学科では決して得られない新時代をリードするユニークな人材に育つと確信します。

統合生命科学コース

本コースは、生命の様々な階層における秩序、構造、機能、法則性とそれらを統合する生命システムの成り立ちを把握し、生命科学のフロンティアを開拓することのできる人材を育成します。特に本コースでは、 駒場生命系の特徴である脳や認知神経科学、複雑系生物学、構成的生物学などの新しい学問分野に加え、生化学、分子生物学など伝統的な学問体系の基礎を勉強し、ヒト、動物、植物、微生物に至る広く生命の実態を分子レベルから解明するだけでなく、光学を利用した1分子解析法、バイオイメージングなど細胞生物学の新手法、個体レベルの行動学などを幅広く研究します。将来、生命科学のフロンティアでブレークスルーをもたらすような科学者・研究者や生命科学分野で活躍する社会人となるためには、若い時代に広い範囲の学問を修得し、「厚み」を備えておく必要があります。本コースの大きな特徴は、理学部、農学部、薬学部などには見られない複合的アプローチです。

認知行動科学コース

本コースは、理系カルチャーに半身を置きつつ心理学の人文的問題全般を扱う、世界でもまだ珍しい21世紀型の心の学びの場であり、心の働きを総合的に把握するとともに、発生と適応の観点からも学びます。心理学は伝統的に文系学部に属してきましたが、多彩な現代的アプローチを学ぶには、文理の垣根にとらわれず貪欲に知を追求する姿勢が大事です。文科・理科生が半々である特徴を生かし、予備知識の多少によらず心の実証研究の本質が自然にわかる授業展開がなされ、互いに高め合ううちに学際性豊かな知識が身に付きます。進化認知科学、認知臨床心理学、神経行動学、心理物理学といったテーマをはじめ、認知行動科学の諸領域を扱います。小人数で心理学実験法と実践を学び、最先端の手法を身に付けます。学融合プログラム「進化認知脳科学」等の関連講義なども主体的に履修でき、興味に合わせて多彩な履修計画を作れます。心の先端研究を一緒に学び究めていきましょう。

スポーツ科学サブコース

本コースは、様々な身体運動を、力学・医学・生理学・生化学・神経科学・心理学の観点から総合的に科学し、運動の成り立ちおよび身体の可塑性について学びます。そして、応用科学であるスポーツ科学を通じて、スポーツパフォーマンスの向上、身体のサステイナビリティの確保などを、総合的に考える能力を養います。このコースは、東京大学の中で唯一、スポーツと身体運動および健康に関わる教育と研究を行うコースです。統合自然科学科および学際融合科学科に進学した学生で、このコースに興味があれば、卒業研究(卒論)をスポーツ科学サブコースの教員の元で行うことができます。主な研究テーマとしては、身体運動に関わる運動生理・生化学、バイオメカニクス、トレーニング科学、健康スポーツ医学などです。