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東京大学教養学部創立70周年記念シンポジウム 「学際知の俯瞰力―東京大学駒場スタイル」   太田研究科長・学部長挨拶

こんにちは、学部長の太田です。本日は貴重な休日に総長や理事、OB/OGの方々に遠路お越し頂き、ありがとうございます。今日は7月7日で七夕です。入り口に笹と短冊を用意しました。今回、シンポジウムの感想や駒場へのエールなど、皆様のお声を短冊に記し、笹に掲げて頂ければと思います。
 さて、70周年シンポジウムをなぜこんな梅雨期の日曜日に設定したのでしょう。この4月から学部長を拝命したばかりで、事情をよく把握しておりませんでした。そこで、世話人の一人である津田先生にこっそりその理由を聞きましたところ、新制大学としての東大の第1回目の入学式が7月7日だったことを知りました。石田前学部長にお話を伺ったところ、「7月7日に70周年なので、トリプルセブンプロジェクトと呼んでいます。」とのことでした。ちなみに、生協では70周年を記念して、緑茶ペットボトル70円、カレーライス70円引きが行われています。
 さて、翌7月8日に、初代学部長矢内原忠雄を擁する教養学部がスタートしました。授業ですが、7月16日までの特別講演ののち夏休みとなり、授業が始まったのは9月からだったそうです。一時期東大も秋入学でたいへん話題になりましたが、なんと最初の年度は秋入学だったわけです。
 このたび、70周年を記念して『東京大学駒場スタイル』という本が東大出版会から刊行されましたが、この「駒場スタイル」って何でしょうか。本日久々に駒場に来られた方は、どのくらいいらっしゃいますでしょうか。20年以上ぶりという方は、手を挙げて頂けますか。駒場をご覧になって、その変化に驚かれたと思います。駒場寮がなくなり、モダンな図書館や学食・生協、KOMCEEという新しい教室・実習棟が建設されました。いっぽう、この900番教室や1号館など、旧制一高から継承する歴史的な建造物も保存されています。ここで皆様、ちょっと後ろをご覧下さい。本日特別に絵を飾っています。これは菅原道真と坂上田村麻呂の絵で、一高時代の講堂に掲げられていたものです。文武両道をシンボライズしたものだそうです。駒場スタイルは、このように変化する部分と、不変部分が上手く組み合わさって成り立っています。
 教育のスタイルも大きく変わりました。国際人に必要な英語力を鍛えるALESS/ALESA、日本語と英語に加えもう一つの言語を集中的に強化するTLPなどの語学プログラムが実施されています。英語だけで学修を行うPEAKも運営されています。入学生を少人数のクラスに分け、基礎的な学習スキルを習得させる初年次ゼミナールや、先進的な科学研究を学生に示してやる気を引き出すアドバンスト理科もスタートしました。
 もちろん、これらの変化の土台には、不変の教養学部の基本教育理念があります。それは、教養学部発足時に矢内原学部長や、南原繁総長が考えたものです。南原総長は、人間性を伸ばすために遊ぶことが重要と指摘しました。学生が、興味のある分野だけでなく、幅広い学問領域を学び、その中で自らの進むべき専門分野を考えるレイト・スペシャリゼーションの考えは、この人間性を伸ばすための遊びと結びついたものです。
 南原総長はもう一つの理念として、碩学が大所高所から若者にメッセージを伝えることを示しています。碩学というのは、断片的な知識だけでなく、学問を究め、自然を高所から解釈できる知の精髄、つまり極めて優秀な研究者です。つまり、世界の一線級の研究者を教養学部に配置すべきということになります。私などは穴があったら入りたい気分です。もう一人の矢内原学部長、後の総長は、教養教育の具体的目標として、真偽を見分ける力、問題発見・解決のための洞察力、人間としての気品を身につけることを掲げました。3つめの人格の陶冶というのは、昨今とても難しい目標になりました。
 これらを達成するためには、学生も教員も、多様な学問に敬意を持って接し、広い視野、批判的分析力、洞察力、分野を開拓する力を高めていく必要があります。そのために、学問の自由や多様性に溢れるラファエロの「アテナイの学堂」に描かれたような知的創造・交流の場を堅持し、より普遍的な知性の総合と創出を目指すことが大切です。
 不安定化を極める現代社会において、多様な価値観の理解や、学際的視点といった「駒場スタイル」の重要性が増しています。駒場は、今後も絶えず進化し続け、新しい知の創造の場として、そして世界を支える知的リーダー育成の場として、絶えず進化していく必要があります。そして、卒業生が駒場を再訪したときには、故郷のように懐かしく、温かい、誇らしい思いがこみ上げてくるような場であり続けることを願いつつ、私の挨拶とさせて頂きます。

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