HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報529号(2010年5月 6日)

教養学部報

第529号 外部公開

〈本郷各学部案内〉 医学部の魅力

清水孝雄

H-5-2.jpg「医学」というのは未知の点が多く、それだけに魅力的な学問です。また、人間と社会との接点の大きな分野であるという点では文系的な側面もあります。人間の体の仕 組みと病気の発症機序を学ぶ「基礎医学」、新しい診断法や治療法を開発する「臨床医学」、個としてではなく、社会として健康を守ろうとする「社会医学」 (この中には予防医学、医療政策学や人間栄養学などがあります)、また、高齢者や弱者の生活の質を上げ、機能向上を目指す「介護、看護学」、さらに開発途 上国への医療援助や感染症などのワクチン開発や普及などに関わる「国際保健」、実に色々な分野があります。

医学部は人体の仕組み、病気の発症機序や治療法を学び「医師免許」を目指す「医学科」(百十名)と、病気の予防や、社会、環境との関係で疾患を考える分野、さらに介護や看護の科学を創造する「健康総合科学」(四十名)の二つから構成されています。

医学部の教育は教養二年の後期から始まります。医学科では最初の一年半は主として、こうした基礎医学、社会医学(健康の維持、予防医学など)の講義と実 習を行います。医学部二年生からは病気の医学(臨床医学)の講義と病院での実習が始まります。健康総合科学では様々な講義、実習を行い、健康科学か看護の 道を選ぶこととなります。東大で看護を学んだ人は臨床経験を積んだ後に全国の大学や病院で指導的な看護師として働いています。

この様な医学部の教育を経て、皆さんは生命の神秘、また、多くの生命現象が分子のレベルで解明されてきたこと、環境や遺伝が疾患とどのように関わるかを 理解する喜びと目眩を覚えると思います。不治の病と思われていたエイズやガンの画期的な治療法も開発されてきました。また、同時に医療というものがまだま だ不完全であり、発展途上であることに気づくはずです。

日本中には多くの医学部と医科大学があります。その中には現在の医療の現場を担う職業人を養成することを主な目的とした大学と、明日の医学、医療を切り 拓く「広い意味での“研究医”」を養成することを主な目的とする大学とがあると思います。本学の医学部は明らかに後者、つまり人体の仕組み、病気の原因 (遺伝因子、環境、社会因子)、病態の解明、新しい診断、治療法や介護法の開発といった研究指向の人材を育てることを目標としています。医学科では平成二 十年四月より『MD研究者育成プログラム室』が創設され、約一割の学生がこのコースに入っています。また、優秀な成績なら、医学科の途中から大学院へ入る コースも準備されています(PhD-MDコース)。駒場でも毎週月曜日の五限、全科類生を対象に「生命現象から病気の治療へ――多様な医学研究」が開かれ ます。ふるってご参加ください。

東大では教養学部という素晴らしい制度をしっかり維持し、発展させています。将来、臨床医学、基礎医学、看護学、健康科学あるいは社会医学と、どの分野 で人生を送る場合も、人と社会とのかかわり合いの中で生きていきます。その時自分がどのような価値観を持ち、それを基盤として社会そして他人とどのように かかわり合いながら生きていくかということは、言葉には言い表せないほど重要なことであり、教養学部時代にしっかり基礎を作ることです。

多くの諸君は、高校までの生活の中で人生についてゆっくり考える時間はなかなか見いだせなかったのではないでしょうか。教養学部の間、歴史、哲学、文 学、社会科学、倫理学、心理学、教育学等をよく学び、広く深く本を読み、自分の人生について考える機会を持ってください。自然科学、特に高校で生物学をあ まり学ばなかった人は、生物学に力を入れてください。成績ではない、深い教養を持った医療従事者がこの激動の時代に求められています。英語などのコミュニ ケーションスキルを磨くこと、また、運動部などに入り体力作りをすることも大切です。また、時間があれば、駒場の時代から本郷の教室見学も可能です。(http://www.m.u-tokyo.ac.jp/

(医学部長)

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