HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報529号(2010年5月 6日)

教養学部報

第529号 外部公開

〈本郷各学部案内〉 科学的な技術を扱う学術としての工学

関村直人

工学の多様性
工学部は東京大学で最も大きな学部です。また東京大学工学部は総合大学におかれた工学部として、世界で最も長い歴史を持っています。  現代の工学は、人間社会や産業、地球環境に密接に関わる科学的な技術を扱います。技術とはものごとを巧みに成し遂げる手段という意味もありますが、基礎科学の基盤を取り込むことによって、科学的な技術へと成長を遂げてきたのです。
工学の専門分野は、電気、電子、情報、機械、航空宇宙などの最先端テクノロジー、物理、数理、物質、化学、バイオなどの基盤技術研究、社会基盤学、都市工学や技術を芸術にまで展開する建築学に加え、総合的な視点からシステムを扱うシステム創成学まで、きわめて多様です。

学問としての工学
工学というH-5-3-01.jpg学問は、「価値を創りだす方法論の体系」と言えます。工学は真理を追究して「わかる」ことだけではなく、「できる」ことをめざします。工学 は、目的を果たすために科学的な技術を生み出す知識を体系化した「できる」ための学術体系です。体系化された知識を得るための活動が、工学研究なのです。
人間はさまざまな欲求、要求を持っています。これに応えるため我々は「もの」を作り出してきました。基盤的な科学を応用して「もの」を設計し製造するこ と、即ち生産はこれまでも工学の中心的課題でした。ソフトウェア、サービス、社会制度設計などの「こと」へも工学の対象は拡がっていますが、これはコミュ ニケーションをしたい、安全に暮らしたいという要求に基づくものです。また医学と工学の結び付きは、医療用の高度な検査機器や手術用ロボット開発を促して きましたが、高齢化社会においても生きがいを見つけ心を豊かにする科学技術としての福祉工学分野が成長しています。

現代の工学と国際社会での役割
現代社会では、技術の社会全体への影響が大きくなっています。インターネットや携帯電話の例を挙げるまでもなく、技術が生み出してきたものは、創り出す 側の意図とは関係のない影響も持ちえます。専門分野を深めるとともに、環境負荷を考えたリサイクルシステムの確立などへの体系化された知識を得ることが重 要です。また、設計・製造のためにはマネジメントシステムや技術戦略学が必要になっています。
エネルギーと資源に関わる課題や地球環境の課題解決を例に出すまでもなく、これからの工学は国際社会におけるグローバルな価値を考えなければなりませ ん。東京大学工学部では大学院の博士課程までを含めて、バイリンガルキャンパス構想のもとに国際的に活躍できるための教育プログラムを充実させています。

 

科学と技術のリーダーとしての東京大学工学部
東京大学工学部では、二〇〇〇年に東京大学出版会から『工学は何をめざすのか――東京大学工学部は考える――』を出版し、学内外に二十一世紀社会での工 学の役割を問いかけました。この書籍は、変革期にあった各大学の工学教育・研究の在り方に、大きな影響を与えました。それから十年を経て、工学部では工学 ビジョン編集委員会を再び結成して、この十年間の社会の変革を展望し、『工学ビジョン二〇一〇』を再び世に問うこととしています。次の十年、二十年、さら に長期を見通して、これからの国際社会と日本の基盤を支える価値の創成に、皆さんが自分自身の夢を具体化することで参画していただくことを希望していま す。工学部とこれに続く大学院修士課程と博士課程は皆さんのためにあります。

(工学系研究科副研究科長)

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