HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報535号(2011年1月 5日)

教養学部報

第535号 外部公開

4S国際会議の駒場での開催

藤垣裕子

B-4-1-01.jpg八月二十五日から二十九日まで、駒場Ⅰキャンパスにおいて、国際科学技術社会論会議(以下4S)と日本の科学技術社会論学会(JSSTS)の合同会議が開催された。会期中、正門前に青と白の大きな看板が設置され、学内をネームカードを下げた外国人が大勢ウロウロしていたので、「おや、学会か?」と気付かれた方も多かろう。猛暑に円高という環境下にもかかわらず、三十五カ国から九五八人の参加を得、うち海外からの参加者は六七四名にのぼった。

4Sとは、科学と技術と社会とのインタフェースに発生する問題について科学技術論、社会学、人類学、歴史学、哲学、政治学、経済学および科学計量学、科学技術政策論などの側面から探求することを目的に設立された専門家集団であり、伝統的な専門領域に拘束されずに広く科学技術と社会との間におこる問題群に対して学際的に扱う。

STS(Science and Technology Studies あるいはScience, Technology and Society)と言われる領域の学会であり、科学技術の社会的側面に興味をもつ現場の科学者、技術者、および一般のメンバーにも開かれている。この国際会議は一九七六年に設立されたが、北米および欧州以外の地域での開催は、今回の東京大会がはじめてであった。そのため、アジア地域からの参加者が昨年までの本会議に比べて格段に多く、全体の参加者の三分の一を占めるほどであった。

プログラムに掲載された口頭発表の数は九百を越え、同時並行で二十二部屋(五、十二、十三号館)、十一のタイムスロットに分かれ、合計二一八個のセッションが持たれた。何故こんなにセッション数が多いのか。それは4Sの扱う研究対象が非常に多岐にわたっているためである。科学と技術と社会とのインタフェースに発生する問題は多々あり、4Sが研究対象として扱う課題には事欠かない。

しかも、自然科学というものが普遍的と言われていて、グローバルで共通なものとして研究されているのに対し(たとえば自然科学の研究対象としての「電子」は、日本の「電子」とアメリカの「電子」と中国の「電子」が違っていたりはしない)、社会の側を構成する社会制度や法、背負っている歴史などは、ローカルで文化差の大きなものである。片やユニバーサル、片や文化差への考慮無しに分析不能、ということで、4Sの研究対象は多岐にわたる。専門家論、専門知の使われ方の文化差、科学者の社会的責任、市民運動論、市民知の用いられ方の文化差、行政の対応比較、科学の公共理解、科学コミュニケーションなど、セッションのテーマは、読んでいるだけで飽きないものであった。

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文化差を扱うとなると、国の数だけSTSがあるのだろうか。注意深くみると、実は文化差がありながら、共通に扱える概念も存在する。たとえば統計学者の松原先生が提唱した「行政による第二の過誤」という問題。問題があるのになしとした(チッソ水俣工場の排水に問題があったのにないといった、日本の牛に問題があるのにないといった、非加熱製剤に問題があるのにないといった、など日本政府の対応が遅れて問題となった例は多数)行政の対応の遅れは、日本だけに限った概念ではなく、EUの科学政策の場でも十分使える概念であり、EUの研究者や行政官とともに議論が可能であった。

今回の東京大会にあたり、二月十五日に論文アブストラクトがネット上で締め切られてから、六月一日のプログラム公開まで、4S側が契約した会社の使いにくい英語のソフトウェアを使って、ネット上で論文抄録を査読者にまわし、アクセプトされた論文をグルーピングし、セッション名を考え、時間割を組んだ。そのあと八月下旬の開催まで、私の生活はほとんど4S準備で追われ、処理したメール数は千五百通を越え、夏休みもほとんど無かった。でも、二十五日のプログラムチェアズプレナリの場で、「私がプログラム委員長兼実行委員長です」と挨拶したときに満員の一三二三教室から自然と湧き上がった拍手で、すべて報われたような気がした。

会期中、初日のレセプションはファカルティハウスで、金曜のバンケットは生協の二階で行い、急病人は保健センターで診ていただくなど、駒場キャンパスのインフラを最大限利用させていただいた。昼食も九百人近い参加者が生協に参集し、それはそれは国際色豊かな昼食風景となった。たまたま会期中に生協1Fでランチを取っていた元教養学部の学生から、「今日は生協が楽しげですね。テーブルごとに英語で話してたり、フランス語がとびかってたり、顔はアジア人なのに聞き取れない言葉だったり。自分の考えている最先端のことを同じ領域の仲間と共有する学会って、楽しいんでしょうね、先生」と言われた。よほど楽しげだったに違いない。

また会期中の写真を記念にたくさん撮ったが、五号館噴水前のベンチに、サングラスをかけた外国人が座っていると、あの噴水前の写真が「ここはハワイか?」とみまちがえるような写真にしあがっているのには驚いた。夕刻の銀杏並木のライトは美しく、「ビューティフル・キャンパス!」と参加者にも言われ、駒場キャンパスの美しさを誇りに思った。日頃、駒場キャンパス環境整備や設計にかかわっている先生がたのご尽力に感謝したい。最後になったが、準備を手伝ってくださった廣野先生はじめ多くの研究者の方々と大学院生の皆さんにお礼申し上げます。

(広域システム科学系/情報・図形)

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