HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報535号(2011年1月 5日)

教養学部報

第535号 外部公開

〈時に沿って〉英語・アーカイブ・チャイナタウン

小川浩之

2010年10月に、地域文化研究専攻のイギリス科に着任しました。この冬学期は、前期課程で「英語I」と文科三類一年生向けの「英語演習」、教養学部後期課程で「イギリス社会構造論演習I」、大学院総合文化研究科で「ヨーロッパ地域システムI」といった授業を担当しています。研究上の必要からほぼ毎日英語を読んではおり、ときには英語で論文を書いたり、英語の本を翻訳したりといった経験はありましたが、授業で英語を「教える」ことについてはまだまだ経験不足で、試行錯誤の毎日を送っています。

京都大学法学部・大学院法学研究科で学んで以来、広い意味の専門は国際政治学で、自分で本や論文を書く狭い意味の専門は戦後のイギリス対外関係です。特に、1950年代から60年代にかけて、イギリス政府の対外政策が帝国・コモンウェルス(英連邦)からヨーロッパ統合へ徐々に方向転換していった時期について、イギリスを中心に各国の政府文書や議会議事録・議会文書、政策決定者の回顧録、さまざまな二次文献などを手がかりに研究してきました。とりわけイギリスをはじめ、日本、アメリカ、カナダ、オーストラリア、マレーシア、シンガポール、香港などの文書館(アーカイブ)や、EUや欧州自由貿易連合(EFTA)といった国際機関の文書館(それぞれフィレンツェとジュネーブにあります)を訪れ、当時の文書を調べることに多くの時間を費やしてきました。

もちろん各地の様々な文書館や図書館でリサーチをするのは、楽なことばかりではありません。毎日、長時間文書を読み、ノートパソコンに入力・整理する作業を繰り返していると、目の疲れをはじめ、いろいろ体に負担がかかってきます。いわゆる先進国においても、ホテルなどでの滞在が続くと、日本での普段の生活と比べて何かと不便に感じられることも増えてきます。

しかし、多数のファイルやボックスの中から重要な文書を見つけたときなどは、自宅や研究室で本や論文を読んでいるときとはまた異なった研究の面白さを味わえるように思います。その後は、そうした資料を用いて論文や本を書き進めるという、私にとっては最も骨が折れる作業が待っているのですが。

大学生の頃からの趣味のひとつは旅行です。国内外の博物館や美術館、資料館などを訪れ、様々な展示を(批判的な視点も持ちつつ)見ることは、新しい知識を得たり、それまでとは異なる方向に関心が広がったりする機会になっています。個人的には、特定の行き先がないまま街を散歩しているだけでも楽しめます。各地でチャイナタウンなどの移民街を訪れるのも楽しみにしていることです。日本の横浜、神戸、長崎をはじめ、ロンドン、トロント、シドニー、クアラルンプール、バンコク、パリ、ワシントンなど、各地に滞在中一度はチャイナタウンを散策し、史跡や資料館を訪れ、おいしい食事を堪能します。パリやシドニーのチャイナタウンでは、ベトナム戦争期の「ボートピープル」の流入を背景に、ベトナム料理店も数多く見られます。今夏訪れたバンクーバーでは、時間がなく、北米有数のチャイナタウン(ダウンタウンおよび郊外のリッチモンド)に行き損ねたことが心残りです。ロンドンには、数多くの素晴らしい博物館や美術館とともに、インド系やアフロ・カリブ系の大きなコミュニティもあり、出掛ける先には事欠きません。駒場において、これまでの研究や関心を深めつつ、さらに新しいことにも積極的に取り組んでいきたいと思っています。皆様、これからどうぞよろしくお願いいたします。

(地域文化研究専攻/英語)

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