HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報536号(2011年2月 2日)

教養学部報

第536号 外部公開

〈時に沿って〉機会はどこにあるか

奥田拓也

9月から助教として就任し、基礎物理学実験を担当している奥田です。大学院から北米にいたので、日本に住むのは十年ぶりです。

学部生にとっては実験の先生なのですが、私は実は(!)理論物理学者で、弦理論やゲージ理論、ブラックホールといった、素粒子や重力に関連するかなり数学的な研究をしています。自由な発想で切り込んでいける、とても奥深い不思議な世界です。

この文章を読むあなたは海外留学に興味がある一、二年生の学部生かもしれません。せっかく教養学部報に書く機会を得たので、自己紹介をかねて留学について書きます。本気でサイエンスを志す全ての学部生に、海外大学院への進学を真剣に考えることをお勧めします。私は京都大学を卒業後、カリフォルニア工科大院で博士号を取得し、アメリカとカナダで五年間ポスドク研究員をしました。今、振り返ってみて、留学したのは当時に想像していたよりもはるかに良い選択でした。

米国やヨーロッパでは大学院生が日本に比べて教員と密接に研究するため、入学して最低限のコースや試験をすませば、ほぼ確実に最先端の研究を始められます。サイエンス共通の言語である英語を用いて教育を受けられますし、世界各国のサイエンティストとのコミュニケーションが自然にできるようになります。実は日本を除くほとんどの国では、サイエンス系の大学院教育は全ての学生が授業料を払わずに受けられるだけではなく、ティーチング・アシスタントなどをしながら給料をもらって、それで生活できることが保証されています。

日本から海外の大学院に進学するにはなかなか準備が必要なので、あなたが一、二年生だとしたら今の間に真剣に考えて三年生のときから行動を開始したほうが良いでしょう。推薦状を書いてくれる教員を見つけるのに注意がいりますが、東大ならば、念入りに準備すれば留学するのはそれほど難しくないと思います。日本で少子高齢化が進み、経済や科学・教育予算が縮小する中、学部生の皆さんにとって(そしてわれわれ教員にとっても)より多くの機会が、海外に出ることによって現れるはずです。

まだ日本に戻って来たばかりということで思うままに書きましたが、もしかするとこれを読むあなたは学生ではなく、大学の教員かもしれません。想像するに、多くの先生にとって海外留学を学生に勧めるのはためらわれることかもしれませんし、私もそうなるのかもしれません。自分が大学院生を集める必要がありますから。十年前に比べて改善しているのでしょうが、海外留学に関する情報は日本の学生にあまり行き渡っていないのではないかと予想しています。若い人材が十分な情報を得て最善の選択をし、多様な経験を積むことが、長い目で社会全体の利益になるはずだと思います。

(相関基礎科学系/物理)

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