HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報538号(2011年5月11日)

教養学部報

第538号 外部公開

〈後期課程案内〉 生命・認知科学科――見えない生命現象を解く――

石浦章一

生命・認知科学科の教員や学生は毎日何をしていると思いますか? 隣の学科には、数式を繰りながら 歩いている教員の方もいるようですが(教養学部報五二九号参照)、私たちは違います。名前を聞いても何をしているかわからない学科が多いこのごろ、私たち は生命現象を単に記述するだけではなく、こころの動きなど目に見えない高次認知機能を明らかにすることに心を砕いているのです。キャンパスの隅に座り込 み、じっと虫の挙動を見ている教員がいたら、それは生命・認知科学科の教員であることは間違いありません。虫の行動と神経細胞の動きが頭の中で連動し、そ の教員の目には電気信号と化学反応式が見えていることでしょう。

私たちは、科学の最後の砦である生命とは何か、生きている状態とは何をしていることなのか、意識があるのはなぜか、外界からの信号を受容するしくみはど ういうものか、などの解明に、大きな力を注いでいます。今や生命科学は、物理学、化学、数学、情報科学、工学、脳科学、心理学、認知行動科学などが学際的 に融合し、複合的な視点が必要な新しい学問分野に成長しました。その意味で生命科学の発展は、これからの人類の将来を決めると言って過言ではないでしょ う。

生命・認知科学科は、このような生命科学のめざましい発展を予測したかのように十数年前に作られました。当初は、「生物学と心理学の融合」を旗印に研究 教育を進めて参りましたが、膨大な知識が蓄積するにつれ、この枠を大きく超えた新しい学融合学科に成長して行きました。現在は、東京大学の理学系学問分野 の中でも特別な位置を占めるに至っています。

生命・認知科学科には二つの分科〈コース〉があり、それぞれは、ヒトを含む動物、植物、微生物、生体分子を幅広く対象とした普遍的な生命現象の解明を扱う基礎生命科学分科〈Aコース〉と、人間や動物の認知機能と精神活動を扱う認知行動科学分科〈Bコース〉に分かれています。特に、二年生冬学期に開講される臨海実習、実習を伴う特論、フィールドワーク(動物生態観察)などの共通行事では、両コースの学生が一緒に参加し研鑽に励んでいます。

生命・認知科学科が目指す教育は、DNA・RNA・タンパク質などの生体物質の構造・機能解析、それらがつくる情報ネットワーク解析と生命の基本単位で ある細胞の機能解析、細胞のネットワークが作る組織や動物・植物個体と環境との関わり、ヒトの病気、そして認知・意識などの高次機能を司る脳内メカニズム までをカバーする統合生命科学です。特に、「見えない生命現象を解く」を合言葉に、人間の行動予測、リアルタイムに検出される脳の変化と行動との関係、遺 伝子変異と高次認知機能の対比、細胞内現象の可視化、人工細胞系の開発、微生物の環境適応など、幅広い分野の研究がおこなわれています。

この目的のため、学科のカリキュラムには、生体分子科学、分子生物学等の基本的な講義の他に、現代遺伝学、生化学、細胞生物学、細胞情報論、発生分化生 物学、細胞代謝エネルギー論などが用意されています。また、行動生態学、認知行動障害論、適応行動論、比較認知科学、認知行動科学研究法などの講義も用意 されています。また、基礎生命コースでは、三年生の午後は週四日実験があり、認知行動コースでは、二年生の冬に週一日、三年生の夏に週一日の実験が用意さ れ、また三年生の冬学期には各自一つの研究テーマを選んで半年間自律的に実験研究を進める実験実習も用意されています。認知行動コースの学生が基礎生命 コースのDNA実験などをフレキシブルに履修することも可能です。

本学科の卒業生には、生命環境科学系の大学院に進学しさらに学問を究めて研究者への道を目指すもの、科学知識を活かして一般企業(出版、マスコミ、情報 関連、科学インタープリター)に就職するもの、教育職を目指すものと様々です。生命・認知科学科の学科ガイダンスは五月十三日(金)の一八時から一六号館 126/127室で行います。

(生命環境科学系/生物)

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