HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報544号(2012年1月11日)

教養学部報

第544号 外部公開

玉井哲雄先生をおくる

増原英彦

玉井先生は一九九四年四月に駒場に着任され、以来駒場を中心に研究・教育に従事してこられた。駒場に来られる前は、筑波大学の社会人向け大学院で教鞭を取られ、さらにその前は三菱総合研究所に勤められており、産業界との接点を多く持たれた先生として活躍してこられた。

先生のご専門はソフトウェア工学、つまり「ソフトウェアの作り方」に関することである。通常こういった紹介をするときには「ソフトウェア工学の中でも、特に○○を専門としていらっしゃる」と書くものだが、玉井先生に限ってはソフトウェア工学全般にわたって精通していらっしゃるので、こう書くしかない。しかも「ソフトウェアの作り方」と言っても、作る前、例えば顧客の要望を整理する方法から、作った後、例えば完成したソフトウェアの正しさを論理的に検証するツールまで、非常に異なる側面を持った様々な手法が研究対象となるのだから、実に驚嘆すべきことである。実際、先生が著された「ソフトウェア工学の基礎」は、この広い分野の重要な点を的確に押さえた教科書として評判が高い。

ソフトウェア工学での玉井先生の知名度は、日本国内はもとより、世界的にも高い。いや、知名度が高いというよりは、世界的にこの分野をリードしているというべきであろう。あまりにも多すぎて全てを紹介することはできないが、例えばこの分野で最も権威があるソフトウェア工学国際会議では、何年にも渡ってプログラム委員を勤めているだけでなく、学生のための企画や開催準備のワークショップに携わるなど、中心的な人物として活躍されておられる。それ以外にも、プログラム委員長やステアリング委員として多くの国際会議の運営を中心的に担われていらっしゃる。こういった国際会議の運営に関わると非常に沢山の論文を査読をしても何度も海外出張をすることになるのだが、決して忙しいそぶりを見せずに全てを片付けてしまうご様子を見て、筆者などはその秘訣を知りたいと何度も思ったものである。

このように研究において多忙を極める活躍をしていらっしゃるにも関らず、教育や学内の運営にも決して手を抜かないのも玉井先生のスタイルであった。廃寮問題(先生ご自身の文章にもっと詳しく書いてあります)や情報学環の発足、学科の再編など、利害が複雑な事柄でも中心的に活動してこられた。利害関係者間の調整というのは、ソフトウェア工学でも重要な研究要素の一つであるので、ご専門の知識を活かして手腕を発揮されていたのかも知れない。数年前、学科再編の打ち合わせの際に「この話がまとまっても、ぼくは定年でいないんだ」とつぶやかれていたのは印象的であった。

四月からは法政大学の創生科学科という新しくできた分野横断的な学科に就任されると聞いている。今後もますます活躍されることを切に願って、おくる言葉とさせていただきたい。

(広域システム科学系/情報図形)

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