HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報545号(2013年4月 3日)

教養学部報

第545号 外部公開

駒場祭再訪

足立信彦

545-B-1-2.jpg十一月下旬にしては不思議なほど暖かい日々がつづくなか、一一月二五日(金)から二七日(日)にかけて第六二回駒場祭が開催された。晴天にめぐまれ入場者は九万五千人にのぼり、キャンパスは普段とは違う賑わいを見せた。

今回私は学生委員長として二日間、ほぼ二時間おきにキャンパスを巡回し、かなりの企画を目にすることができた。私が最後に駒場祭を体験したのはかれこれ もう十五年くらい前のことになる。その間に学生の気質が変わり、駒場キャンパスも様変わりした。当然駒場祭も以前のようではない。

かつての第六委員会(学生委員会に相当)は、同時開催される寮祭や極端な信仰やイデオロギーをもつ集団が催す企画に対して神経を使っていた。駒場寮はもはやなく、そのような企画も見当たらない。こうして模擬店の目立つ今年の駒場祭は平穏無事に流れていった。

だがもちろん、模擬店ばかりが企画ではない。駒場祭委員会によれば全企画数は約四七〇、その中には「講演会・学術展示」、「演劇(文三劇場)・ステージ パフォーマンス(ダンス、古典舞踊など)」、「音楽演奏(クラシック、バンド、合唱など)」が含まれていた。とくに好評を博したのは建築家隅研吾氏による 特別講演会「負ける建築の可能性」、子どもを対象とした委員会企画「こまっけろランド」、完成したばかりの21 KOMCEE を会場とした駒場祭ロボコンとのこと。私が巡回していて印象に残ったのは第二体育館を黒い巨大な球体が埋め尽くした地文研究会天文部によるプラネタリウム と同じく地理部によって長年制作が続けられているこれもまた巨大な日本立体地図である。

ところで久しぶりの駒場祭で気づいたことがある。

正門広場に設けられたメイン・ステージで多くの観客を集めていたのはロックバンドではなく、なにやら不思議な衣装を着て踊る一団であった。学校の制服を 着た異様な色をした髪の少女や戦闘服(?)を着た少年、黒服の集団などがなかなか統制のとれた動きでステップを踏んでいる。近くにいた人に尋ねるとエヴァ ンゲリオンだという。ははあ、これがコスプレ・ダンスというものかと納得し、学生時代オタクの友人に渋谷にあるマンガの古本専門店へ連れて行かれた時のこ とを思い出した。あの頃はどこかマイナーな趣味につきものの後ろ暗い雰囲気がただよっていたが、いまやすっかり市民権を得て大学祭の花形となっている。ど うやら、かつての花形ロックバンドが巡回路の端にあたるような場所に追いやられていたのは、音がうるさいという理由だけではなさそうだ。ある女子学生によ るとロックミュージックが好きだと言うと今やオタク扱いされるらしい。私が知らないうちに若者文化は一変したようだ。

さらに驚いたのはミスコンの存在である。私の認識では美人コンテストというものは女性の商品化に手を貸すものだと物議を醸し大学祭から消滅したはずだっ たのだが、それが堂々と復活しているだけではなく目玉企画となっている。そこでちょっと覗いてみることにしたのだが、どうも昔とは様子が違う。ミスコンで はなく、ミス東大・ミスター東大コンテストなのである。お洒落な格好をしてステージ上で審査されている男子学生を見ると、ここでも私の時代とは違った何か が起きているのかなと思う。私は見なかったが、これとは別に委員会企画で裏ミス・裏ミスターコンテストというものもあったらしい(意味の分からない人は私 と同年代でしょう)。

これだけ多くの人々が集まったにもかかわらず、さしたる事故もなく大学祭を終えることができたのは、学生支援課の職員の皆さんのおかげである。学生委員長として、骨身を惜しまない仕事ぶりに対し深い感謝の意を表したい。

最後にどうしても駒場祭委員会の学生諸君のことに触れておきたい。今回学生委員長として委員会との協議の場に臨み、学生時代を含め初めて駒場祭運営の内 情を垣間見ることができた。およそ八〇名の一、二年生が九局からなる委員会を組織し、夏秋の合宿、企画代表者会議や大学との交渉を経て三日間の大学祭に漕 ぎ着けるのだ。彼らにしてみれば晴れ舞台であろう。いろいろと苦労もあったようだが、統制のとれた運営によって当日も後片付けでも大きな問題は生じなかっ た。一番の充実感を味わったのはたぶん彼らだろう。お疲れ様。

(学生委員長/地域文化研究専攻/ドイツ語)

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