HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報545号(2013年4月 3日)

教養学部報

第545号 外部公開

久保田俊一郎先生を送ることば

福井尚志

久保田俊一郎先生は、昭和四九年に東京大学医学部をご卒業、医師免許を取得され東大病院で内科の臨床に携わったのち昭和六二年から四年間アメリカ合衆国 メリーランド州ベセスダ市にあるアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health )に留学されました。平成四年に帰国され東大医学部栄養学教室の助教授の要職に就かれ、その後十年間にわたって医学部生と医学系大学院生の教育と研究に携 わられました。またこの間、オルニチン脱炭酸酵素と細胞増殖に関する研究で世界をリードする業績を挙げられました。

先生は平成一四年に本郷から駒場に移られ、以来約十年にわたり前期課程の学生教育と生命環境科学系大学院での教育と研究に精力的に取り組んでこられまし た。先生の駒場でのお仕事は一言で言えば最新の健康科学の知識を学生へよく咀嚼した形で伝えるということであったと思います。先生のご専門は健康科学、と くに生活習慣病に関するものです。前期課程の授業では専門的な知識のない学生に一般教養として必要で将来役立つ生活習慣の知識を実に分りやすく説明されて おられました。生活習慣は具体的には食習慣、運動習慣、喫煙習慣の三つに分けられます。先生は学生に対して若いうちから正しい食習慣、運動習慣をつけるこ とが生活習慣病の予防に大切であることを具体的かつ科学的な説明により教えてこられました。

例えば、食塩の過剰摂取は高血圧に繋がることを講義される場合、パンは米より食塩含有量が多いので米中心の食事の方が良いこと、また、ラーメンはとくに 食塩が多いから食べる際は汁を残した方が良い、など身近な具体例を多くあげて説明されました。また運動習慣についてはとくに運動に関心の少ない学生にどの ように運動のモチベーションを持たせられるかを常に考えておられ、運動は生活習慣病の予防に有用であること、さらに脳の活性化(神経細胞の活性化)、とく に記憶能の向上に効果があることを学生に講義されました。また喫煙についてはこれが癌および心臓病のリスクを高めることを具体的なデータを示して強調され ました。

生命環境科学系大学院生の指導ではよく自ら実験手法を示され、また頻繁に討論されて院生の創造性が養われるような指導を心がけられました。その結果、七 名が修士学位を、六名が博士学位を取得しました。また先生は学内業務にも積極的に取り組み、学生委員会委員長、留学生国際交流委員会委員長、組換えDNA 安全委員会委員長、生命環境科学系系長、スポーツ・身体運動部会主任(三年間)などを勤められました。

先生は何事にもまじめに取り組まれる実直なお人柄で、学会出席以外はほとんど毎日駒場に来られ、土日もしばしば先生のお部屋に電気がついているのをお見 かけしました。教員の月ごとの在室時間調査では勤務時間が長過ぎて、産業医との面接の指示が毎回来て困る、と笑いながら話されていたのが記憶に残っており ます。退任後も寄附講座を引き続き主催されると伺いました。先生のお姿を今後もまた駒場で見かける機会があることに安心するとともに先生の今後の研究者、 教育者としての一層のご活躍をお祈り申し上げる次第です。

(生命環境科学系/スポーツ・身体運動)

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