HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報549号(2012年7月 4日)

教養学部報

第549号 外部公開

駒場博物館 特別展「石の世界――地球・人類・科学」について

角和善隆

549-B-4-2.jpg
日本式双晶の石英(長崎県奈留島産)。
ハート型であることから双晶の中でも
人気があります。
駒場博物館:http://museum.c.u-tokyo.ac.jp/
7月21日(土)~9月17日(月・祝)
開館時間 10:00-18:00(入館は17:30まで)
休 館 日 火曜日

ゴミと資料を区分する基準はなんだろうか。人によりさまざまな基準をあげる事ができるでしょう。この文では、「どこで採取した何者であるか」の情報が明確なものを資料と呼び、それらが欠けているものをゴミとしましょう。

教養学部ができてから六十三年間、多くの先達が研究と教育のために大量の岩石・鉱物資料を蒐集してきました。しかし、時が経つにつれ、情報を書いたラベルが痛み、失われて行きます。更に困るのは、採集した人が現役の頃は覚えているので明確な記録を残さなかったけれど、退職されてそのまま残されてしまった場合です。物故された方も少なくありません。しかし、研究業績評価に絡めとられている現役研究者にとって、貴重な資料が隠れているこの種の「ゴミの分別」という仕事はなかなか手をつけられません。

ここ数年、駒場博物館とボランティアの人たちの協力で、キャンパスに埋もれていた資料の整理を進めつつあります。まだ道半ばですが、大事に保管していた資料と「ゴミの山と呼ばれる宝の山」から再発見したものを集めて展示したのが、「石の世界」です。博物館の展示用に多額の費用をかけて蒐集したものではありませんから、必ずしも見栄えのする立派な標本ではありません。しかし、しっかり研究の役に立ち、教育用には十分に使えるものばかりです。

さて、地球は半径6400kmの岩石の球であると言えます。中心部は金属鉄ですが、その体積は地球全体の17%を占めるに過ぎません。この岩石の球の上に、薄い海洋と大気とが覆い、生命の惑星・地球がかたちづくられています。

地球は密度成層構造をつくっています。密度の大きい金属鉄が中心部を構成し、密度のより小さい岩石がマントル、そしてもっとも密度の小さい岩石が地殻をつくり、その上に海洋、そして大気が、密度の小さくなる順番に外側を覆っています。この密度成層構造は安定なもので、通常それがひっくり返ることはありませんが、同じ岩石や、海洋、大気の層の中では、密度の逆転が起きることがあり、対流による放熱のしくみがはたらきます。それが生きている地球の活動の原動力です。

私たちが暮らす地表は、地殻と呼ばれる岩石の層の上にあります。地殻には海洋地殻と大陸地殻があります。ハンレイ岩を主とする海洋地殻は表面の七割を占める海洋の底を構成しています。大陸地殻はより密度の小さい、カコウ岩や変成岩を主としていて、海水の上に顔を出して、陸域をつくっています。海洋地殻は二億年以内にマントル対流によって地球内部に戻され、更新され続けますが、大陸地殻は軽いために表面に残り続け、40億年にわたる地球の歴史を記録しています。

人類の歴史もまた、石とともに歩んできた歴史といえるでしょう。初期人類が使った石器は、250万年前の地層からも発見されています。ストーンサークルやピラミッドといった建造物、そして石から取り出した様々な金属の利用など、文明の発展には常に石が関わってきました。そして現在の情報化社会の中で、半導体の基板や光ケーブルなど情報通信技術産業の土台を支えるのは、石英というありふれた存在の鉱物、石なのです。

道ばたの石ころにも、石にはそれぞれ生まれてきた理由があり、その場所に至るまでの歴史があります。そしてそれらの情報はすべて石の中に記録されています。過去数十万年の氷期-間氷期の気候変動と、最終氷期以降の文明の消長も、地層や氷という鉱物の中に記録として閉じ込められています。石を通して、私たちの足もとをもう一度見つめ直す機会になればと思います。

駒場博物館では、7月21日(土)から9月17日(月・祝)まで、特別展「石の世界」展を開催します。開館時間は10:00-18:00(入館は17:30まで)、休館日は火曜日です。

最新情報は、駒場博物館のホームページ http://museum.c.u-tokyo.ac.jp/ にてご確認ください。

(広域システム科学系/宇宙地球)

第549号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報