HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報552号(2012年12月 5日)

教養学部報

第552号 外部公開

〈時に沿って〉居心地

板津木綿子

四月に総合文化研究科言語情報科学専攻に着任したが、すでに駒場で顔なじみの学生はたくさんいる。と言うのも、これまでALESSやPEAKの特任教員として、既に五年間駒場でお世話になっているからだ。ただ、これまでは、毎年三月にオフィスを引っ越し、メールアドレスもほぼ毎年変わってきたので、ようやく流浪生活を卒業して落ち着ける場所としばらく使えるメールアドレスがもらえて、嬉しい。

駒場の一、二年生には英語の授業を担当しているが、これが本当に楽しい。教え応えがあり、また英語力の向上に熱心な学生が履修してくれる傾向があって、クラスに集まった学生たちは、のびのび切磋琢磨しながら勉強している感がある。総じて内向きだと形容される昨今の学生だが、私の周りには、学部留学や大学院留学を目指す学生や海外研修に積極的に出かけていく「外向き」の学生がたくさんいて、見ていて頼もしいし、今後が実に楽しみだ。

駒場で担当する授業はすべて英語で教えており、かなり頑固に学生には日本語で話さないようにしているので、よく考えたら、この自己紹介を日本語で書いては、まずかったかもしれない。(でも、今後も授業では英語でしか話さないので、どうぞそのつもりでいてください。)

私の専門は、アメリカの文化史であり、主に二〇世紀前半のアメリカ大衆文化論や日米文化交流史、余暇に関する言説の変遷について考えている。歴史に興味を持つ者は、自分のルーツを探すという私的な理由で勉強し始める場合が多いと聞く。私はその例に漏れず、パーソナルな理由で歴史に興味を持ち始めた。

日米両国で育って、連続性の欠如した子供時代、学生時代を過ごして、環境の変化によって断絶され消え去った記憶、消されてしまった過去、そして自ら消した過去や記憶をどう按配つけるかという自分の中でのジャーニーが歴史に興味を持つきっかけになった。

環境の変化は、必ずしも父の海外赴任といったような外的要素で強いられたものばかりではなく、自分から環境の変化を求めて出かけていった部分もある。居心地が良いのか悪いのかが不確定なところに身をおいては、何かしらの発見や学び、居場所を探し求めてきているのだと思う。

そういう意味で、居心地が良いか悪いか分からないのに、PEAKやAIKOMプログラムなどを利用して、駒場にやってくる学生を応援したい気持ちが大いにあるし、外に目を向けている駒場生の応援も大いにしたい。PEAKやAIKOMの留学生が履修する授業を担当させてもらっているが、質問はポンポン飛び出すし、世界各国の様々な経験や教育に基づいた発言は、視点も多様で鋭い指摘も多く、議論もとても活発だ。私も楽しんでいるが、学生同士でも学びを楽しんでいるようだ。

駒場の皆さんにも、是非とも居心地の悪いかもしれない場所にどんどん飛び込んでいってほしい。

(言語情報科学専攻/英語)

第552号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報