HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報553号(2013年1月 9日)

教養学部報

第553号 外部公開

〈時に沿って〉ごあいさつ

佐藤和

二〇一二年四月より総合文化研究科身体運動科学研究室の助教としてお世話になっております、佐藤和(さとうやまと)と申します。新任教員による教養学部報「時に沿って」の執筆。教養学部報を秘かに愛読していた私にとって、非常に名誉ある機会をいただきました。私の担当する授業が前期課程の身体運動・健康科学実習とスポーツ・身体運動実習ということもありますので、運動やスポーツに対する私のちょっとした思いを記し、新任教員としての挨拶とさせていただきます。

私は、運動・スポーツと脳の関連性に非常に興味を持っています。現在まで「運動学習および運動制御における小脳の役割」について研究し、学位を取得することができました。運動が心身の健康に寄与することは周知の事と思いますが、運動習慣を定着させることはなかなか難儀な事ではないでしょうか。

運動習慣の定着には、運動・スポーツに対する能動的な関わりが重要な要素であり、対人スポーツや集団スポーツでは仲間との円滑なコミュニケーションが大切です。コミュニケーションが苦手な学生さんもたくさんいると思います。昔、私も苦手でした。不器用でした。そんな皆さん、「ドンマイ!」「ナイスプレー!」そんなやり取りから始めてみませんか? 言われてみると、心に何か響いてくるはずです。何か響いたら、今度は発信してみましょう。何げないひとことを大切に。運動やスポーツをする場面には、そんなチャンスが沢山転がっています。

運動習慣の定着には、運動技能の向上によるモチベーションの増大も大切な要素であると考えられますが、興味深いことに運動技能の向上が自己効力感を増加させ、うつ傾向の減少や自己抑制能力の向上に伴う「キレる」行動の減少に寄与することが心理社会学的研究によって報告されています。最近、我々の研究室においても、運動学習や運動制御に重要な小脳が、自律神経系の制御にも関与していることを明らかにしています。さらに、注意欠損/多動性障害(ADHD)や自閉症の患者さんは小脳が萎縮している事も報告されており、運動やスポーツの実践が情動の制御に貢献している可能性を感じさせてくれます。

運動は、脳に様々な影響を与えることが基礎研究レベルで報告されています。その中に、運動への取り組み方による違いも見受けられます。マウスが自発的にランニングを行ったとき(積極的に行う運動)と強制的にトレッドミル上(スポーツジムにあるランニングマシーンのマウス版)でランニングを行ったとき(やらされる運動)の海馬のニューロン新生は、どちらの運動でも亢進しますが、積極的に行った運動のほうが大きく亢進したことが報告されています。海馬は、陳述的記憶やアルツハイマー病と関わりの深い部位であり、ストレスを長期間受けると萎縮してしまうこともわかっています。これらのことから、運動はストレスから脳を守り、積極的に行うことで効果が増大しそうです。

本学には、これからの日本だけではなく世界を、様々な分野で牽引していくような優秀な人材が多く在籍しています。将来、このような人材が社会のストレスなんかに潰されない人物となるよう、最大限の情熱を持って心と心をぶつけ合いながら切磋琢磨していきたいと望んでいます。そして、最終回の授業で学生の皆さんと共に心揺さぶられる時間を共有できれば幸いです。

(生命環境科学系/スポーツ・身体運動)

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