HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報554号(2013年2月 6日)

教養学部報

第554号 外部公開

〈時に沿って〉生物が嫌いでした。

林勇樹

高校生の頃は生物が嫌いでした。十数年前まではレンガ造りでかつ板間の校舎で、どんなかなづちでも五〇〇mは泳がせる厳しい体育の授業をするような、大阪の歴史ある高校で、部活一辺倒の生活を送っていました。そのため、勉強は疎かになり、初めて赤点を取ったのは生物でした。それ以来生物が嫌いで、大学受験では物理と化学を選択しました。

大学進学に際し、教養課程で学んでから専攻を選べるということもあり、大阪大学工学部応用自然科学科に進学しました。今思えば、東京大学と同じこのシステムは、進路を決定する上で役に立ちました。というのも、学んだ末に選んだのは、高校で初めて赤点を取った生物だったからです。高校とは全く異なる教養課程の授業がなければ生物を選択することもなく、研究者の自分もいなかったと思います。

次の選択は四年生の研究室選びでした。生物コースには、動物、植物、微生物、培養工学、酵素学といった幅広い研究室がありました。その中で「創ってわかる生物学」を標榜する研究室があり、「面白そうやん」という理由でそこを選びました。その研究室では、長い進化の過程で創り出された蛋白質を、実験室で一から創ろう(学生の間に、一つのランダムなアミノ酸配列から蛋白質が創れますか?)というテーマで研究をすることになりました。テーマはわかりやすく、面白いと思いつつも、無謀なテーマではないかと学部生の私でも何となく感じていました。

しかし、研究室が大阪ならではの気質なのでしょうか、まあ「やってみなはれ」と先生にうまく(?)そそのかされて研究を進め、何とか博士号を取得することできました。(蛋白質を創れたかどうかは……論文を探してみてください。)

博士研究員になってからは、遺伝暗号を書き換える技術(遺伝暗号リプログラミング)を使って、試験管内でポリエステルを翻訳合成している先生と出会い、また、「面白そうやん」という理由でコンタクトをとり、幸運にもその先生の研究室で研究に従事することができました。その研究室では、遺伝暗号リプログラミングを駆使して、十の十三乗種もの非天然アミノ酸を含むペプチドライブラリから病気に関係する標的蛋白質の機能阻害ペプチドの探索を行なってきました。

気づけば、「生物」が、「蛋白質」が、大好きになっていました。そして、「面白い」だけでなく、産業や医療に「役に立つ」研究による社会貢献への思いも強くなってきました。その折に、新井研究室が「面白そうやん」+「役に立つやん」というテーマで助教を公募していることを知り、応募したところ、幸いにも採用していただけました。これからは、今まで培ってきた、機能性蛋白質・ペプチドの創製に関するノウハウを、「役に立つ」研究に活かし、大好きな「蛋白質」を扱った教育とモノづくりを通じて、豊かな社会づくりに少しでも貢献できるよう努めたいと考えています。

(生命環境科学系/相関自然)

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