HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報557号(2013年6月 5日)

教養学部報

第557号 外部公開

〈本郷各学部案内〉農学部 人類の課題に取り組む農学部

丹下健

http://www.a.u-tokyo.ac.jp

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旧制一高当時に建てられた1号館
我々の生活は、生物資源に大きく依存しています。食料ばかりではなくエネルギー資源の生産でも生物に対する期待が高まっています。それは、太陽エネルギーを木材などの有機物として固定することで、環境負荷の小さいエネルギー資源を生産できることによります。衣食住のための資源だけではなく、近年、異常気象の多発などで顕在化してきている地球温暖化の進行を緩和するなど、地球環境を保全する役割も森林や海洋の生物が担っています。農学は、植物や動物、微生物の生物機能を活用して、人類生存の基盤である生物資源の生産と環境の持続性に貢献するための学問です。農学は、人類の営みと自然の営みとの好ましい関係の構築を目指すところに特徴があり、エコノミーとエコロジーの折り合いをつけるための学問とも言えます。

安全な食料の増産と地球環境の保全が人類にとって最大の課題です。それらは、人口が増え、人類の活動範囲が拡大する過程で生じてきた課題です。今を生きる我々には、課題を解決し、よりよい未来の基盤を作る義務があります。生物は計り知れない機能を有しており、我々が利用している生物機能はほんの一部に過ぎないかも知れません。環境問題や食料問題の解決に役立つ新たな機能を備えた生物を見いだし活用することも農学の大事な役割です。しかし、課題が我々の社会生活の中で生じていることから、技術だけでは課題は解決できず、社会生活の仕組みを変えることが必要です。人と自然との関係を整える社会科学も農学の重要な分野です。

農学部は、応用生命科学と環境資源科学、獣医学の三課程に置かれた、生命科学や化学、生態学、環境科学、工学、社会科学など、多様な学問分野をそれぞれ背景とした一五専修で構成されています。対象とする生物も、植物、動物、微生物と多様であり、生態系から遺伝子までそのレベルも様々です。フィールドも、国内だけではなく、熱帯地域や半乾燥地など世界中に広がっています。農学部への進学が内定した学生を主な対象として、農学主題科目に食や環境、生物多様性、バイオマス利用など農学の対象を俯瞰する講義を、農学基礎科目には生理学や生態学、有機化学、遺伝学など農学を学ぶのに必要な基礎学問の講義が、それぞれ用意されています。

進学後には、講義を中心とした課程専門科目と実験や演習等を中心とした専修専門科目をバランスよく履修することで、専門性を高めながら、農学に関する幅広い知識を身につけることができるようにカリキュラムが組まれています。また、農学部では、演習林や生態調和農学機構、牧場、水産実験所、動物医療センターなどの充実した附属施設があり、講義で学んだ知識を現場で活用できるように農学教育を支えています。産学官民連携型の教育プログラムであるアグリコクーンでは、多様な学問・社会的な背景を持った講師によるセミナーが開講されており、農学部で学んだことが社会でどのように活かされているのかを知る機会を提供しています。

我々は環境に負担をかけながら生きています。人口が増え、生活レベルが上がるほど環境負荷が大きくなります。一九九二年の地球サミットでは、持続可能な発展が中心的な考え方として議論されました。それから二〇年を迎え、その重要性がますます高まっています。農学は、生物機能の活用を通して持続可能な社会の構築に貢献する学問です。皆さんに農学に関心を持っていただけることを期待しています。

(大学院農学生命科学研究科・副研究科長/森林科学専攻/造林学)

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