HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報558号(2013年7月 3日)

教養学部報

第558号 外部公開

学生は大学に何を求めているか ――テーマ講義「国際機関で働く」受講生に見る学生の意識――

荒巻健二

558-B-4-2.jpg昨年度冬学期に、三名の同僚――長谷川浩一(公共政策)、古城佳子、嘉治美佐子(ともに総合文化)各教授――とともに、「国際機関で働く」というテーマ講義を開いた。目的は、グローバル化する世界で国際機関が果たす役割とそこで働く上で必要となる能力について学生の理解を深めることにあった。

国際機関(IMF、世銀等九機関)・外務省の現役・OG職員のゲストスピーチと質疑、受講生同士の討議、コメント票(毎回)及びレポート(学期中と期末)提出という形で進め、受講生は百名弱(ほとんどが一年生。男性が七割強、女性が三割弱。文系八割五分、理系一割五分)、出席率は平均八割強であった。熱血先生さながらの熱いスピーチ、日本の人口減少や世界経済の地殻変動等の巨視的な視点の提示、開発現場や採用面接での生々しい経験と学生への助言、更に使命感・人生観の吐露にまで至る刺激的な話の連続で盛り上がりを見せたが、「成長しないと生き残れない」という国際機関勤務の厳しさも伝わった。

本来学生への啓発を意識した講義であったが、討議のために学期中に提出させたレポート(七四名)には現在の大学に対する学生の意識が鮮明に現れた。グローバルな大学間競争が激化する中、参考になると思われるので、国際機関に必要な能力と大学への要望に関わる部分についてごく簡単に紹介したい。

1.国際機関で働く上で必要な能力と学部時代にすべきこと:語学力・専門性・対話力

国際機関で働くために必要な能力としては、多い順(複数回答でその項目をあげた人の割合)に、語学力(八割五分)、専門性(七割弱)、コミュニケーション能力(五割五分)、プレゼンテーション能力(四割弱)、実務経験(二割)、教養(一割)、思考力(一割)があげられた。専門は各ゲストが一様に強調し、関連分野の学位と実務経験が不可欠であることは頭に叩き込まれた。仕事上必要な語学力に加え、コミュニケーション・プレゼンテーション能力があげられたのは、同僚や交渉相手との対話力の重要性が強調されたことを反映する。

学部時代にすべきと考えることはほぼ必要な能力に対応するが、大きな括りでみると、語学(五割)・留学(三割弱)・海外経験(二割強)・留学生等との交流(一割強)など語学・国際経験に係るものが極めて多く、次に専門(五割五分弱)・教養(二割五分)、更に対話力(四割強)・論理的思考力(一割強)・サークル等への参加を通じた企画・指導力等(二割)など実践的能力訓練となった。

2.大学に求めること:実践的外国語運用能力・対話力・思考力の訓練及び留学支援の強化

こうした力をつける観点からの学部教育に対する意見で多数を占めたのは、実践的語学力と対話力・思考力の訓練強化の要望であった。語学力強化を求める意見(七割)の中では、英語での議論を含む実践的運用力の強化(四割)、英語での専門・教養科目講義の拡大(一割五分弱)を求める意見が多い。実践的運用能力は「むしろ落ちる」との意見がある。少人数・双方向授業を通じる対話力強化も多くの者(三割強)が求めた。思考力強化の意見(一割五分)はその全てが、大人数の一方向・吸収中心の授業に加え、学生に考えさせ、意見を表現させる思考訓練型・アウトプット重視型授業の強化を求めた。「黒板を写すだけの授業は脳が働いている気がしない」等の意見がある。その他、駒場での専門教育強化を求める意見(一割)、実務教育の強化を求める意見(五分強)もある。

留学に係る問題を指摘する意見(三割強)も多く、その過半(二割)は留学制度を不備とし、「大学は「外に出ろ」と言うが、金銭面での補助もなく、単位の扱いも、留学先の決定も、留学先との手続きも、余りに関心なさすぎ」等の意見がある。同時に学内での異文化交流、英語環境のために留学生等の増加を求める意見(一割強)も多い。

国際的活動に関心の高い学生の意見という前提であるが、現在の学部教育については、専門に係る要望が比較的少ない一方、実践的外国語運用能力・対話力・思考力の訓練、留学支援強化の要望が強いと言え、こうした現実を踏まえた教育強化を考えていくことが重要と思われる。学生への刺激にとどまらず、このような課題の意識化にまで寄与していただいたゲストの先生方にはこの場を借りて改めて感謝の意を表したい。

(国際社会科学専攻/経済統計)

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