HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報562号(2014年1月 8日)

教養学部報

第562号 外部公開

南京で思いっきり学んでみよう――中国語の特訓サマースクールと江蘇友誼奨

刈間文俊

562-B-2-1-01.jpg新しい言語を学ぶというのは、じつに刺激的な体験だ。たとえ目の前に広がる情景は同じでも、それを異なる言語で表現しようとすれば、おのずと微妙な差異が生じる。

頭にぽつりぽつりと雨が落ちてくれば、「雨が降ってきた」と感じる。というか、そう表現するのが日本語だとすれば、中国語は「降ってきた」と自分が感じている現象が先に来て、それから「雨だ」と表現する。なんと感覚的なのだろう、中国語を習いたての頃に思ったものだ。漢字で書けば「下雨」という語順になる。

情景を写し取るこの微妙な差異と異なる価値観のもつ多様性の面白さを知ることこそ、新しい言語を学ぶ醍醐味である。

せっかく学ぶ新しい言語だ。これを思いっきり学んだら、どのような世界が開けるのだろう。やる気のある学生諸君にその機会を提供し、朝から晩まで中国語の勉強漬けにしてみる、それが今年度から始まった二年生を対象にした中国語のサマースクールだ。場所は中国の南京大学。ここで八月の三週間、朝の八時から遅い時には夜の九時過ぎまで授業が続く日もあるという、みっちりとカリキュラムを組んだ特訓サマースクールである。

宿舎と教室がキャンパス内の隣同士の建物という環境で、延べ八十時間に上る中国語の授業と中国関連の講義が行われ、これに太極拳や中国書道の体験講座や企業見学などが加わるというハードスケジュールであった。予習のために睡眠時間を削って頑張った者も多かったようである。南京は「中国の三大ストーブ」といわれるほど夏の暑さで知られるが、連日40度近い猛暑のなか、学生諸君は勉学に励んだだけでなく、自分たちで茶道の交流会を企画するなど、じつによく頑張った。立派なものである。南京大の先生からも、サマースクールでこれほど勉強した学生は初めてだという賞賛をいただいたほどである。

562-B-2-1-02.jpg参加者は十九名、文系と理系の比率はほぼ半々で、男子が十三名、女子は六名であった。参加希望者が多かったため、事前に中国語による試験を行い、選抜を行った。

その充実した三週間は、「南京日報――Nanjing Journal」と題された学生たちのブログに、同時進行的に記録されている。新鮮な感覚で中国をとらえ、未知なる世界を知ろうという好奇心が満ち溢れた、素晴らしい記録となっている。その体験は、いまじつに貴重である。

日本と中国の関係は、戦略的な互恵関係といわれる段階に入り、ときに緊張をはらんだものとなっている。このような時期だからこそ、お互いに相手をよく知る人材が必要となる。相手の言語を習得することはもちろん、抽象的な中国人や日本人という概念を超えて、個人の顔が見える関係を築くことが重要となる。相手への敬意と自らを相対化する広い視野を得ることが、ますます求められている。

サマースクールに参加した学生は、その一端をつかんでくれたのではないだろうか。ブログの記録に加えて、報告集もまもなくでき上がる予定である。教養教育高度化機構国際化部門のLAPのホームページを、ぜひご覧いただきたい。

中国語には「一回生二回熟」という言い方がある。「一度目は見知らぬ仲でも、二回目には親しくなる」という意味だ。駒場キャンパスと南京大の間では、さまざまな交流が行われている。南京大の日本語履修学生を招いて、授業の聴講や共同研究を行う「駒場一週間体験プログラム」(11月)や、本学の教員が南京大で開講するリベラルアーツ集中講義に合わせて学生を派遣する交流(3月)が、それだ。これらの交流プログラムにも、サマースクールの参加学生が積極的に関わってくれている。学生の間の「熟」の関係が深まっていくことを、大いに期待している。

南京大と行ってきた多彩な教育交流に対して、南京大と南京市の推薦を受けて、2013年の江蘇友誼奨を受賞する栄誉に浴した。これはLAPが行ってきた教育交流のモデルが評価されたもので、プログラムが受賞する形が中国にはないため、私が代表して賞をいただいた。これも講義や引率でご尽力いただいた先生や意欲的な学生諸君のおかげである。この学生交流には(株)ゼンショーホールディングスから寄付金のご支援をいただいている。併せて感謝する次第である。

今年の夏には第二回目のサマースクールが実施される。学生の声を取り入れ、教材を事前に配布するなど、さらなる充実を図るつもりである。後期課程の学生を対象にした新しいサマースクールも計画している。南京で思いっきり中国語を学んでみたいという皆さんの積極的な挑戦を待っている。

(超域文化科学専攻/中国語)

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