教養学部報
第563号
〈時に沿って〉 ナイジェリア新聞と出会い、駒場に戻る
澤田望
2013年10月1日付で、総合文化研究科 地域文化研究専攻の助教に着任いたしました。所属は大学院ですが、主に教養学部 前期課程の英語部会にかかわる業務と授業を担当しています。イギリスのバーミンガム大学西アフリカ研究所で博士号を取得後、この9月まで後期課程のイギリス研究コースで勤務しておりました。
私の研究テーマは、植民地期ナイジェリアの出版文化史です。その中でも特に、教育を受けたアフリカ人が出版したパンフレット、年鑑、新聞を通して、彼らが自分たちの社会をどのように描き、内外に発信したのかを、歴史的背景と照らし合わせて考察しています。日本で入手困難な史料を扱っているため、現在でもイギリスとナイジェリアの史料館で収集した新聞や編集者の書簡などを参照しています。
新聞というと、途方もない規模で販売され、その日のうちに消費される「一日限りのベストセラー」を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、私が注目する時代と地域の新聞を読む際には、オーラル・ヒストリーやオーラル・トラディションの記録者として、個々の出来事に極めて永続的なかたちを与えるツールであったことが重要です。
私は修士課程進学時から、おぼろげに海外で博士号を取得したいと考えていたものの、まずは留学資金獲得が第一関門でした。いくつかの財団に応募する中で、YKKが母体の吉田育英会に拾っていただいたことがきっかけとなり、状況が変化します。イギリス政府海外出身大学院生学費減額制度と、バーミンガム大学歴史学学部学費補助金を合わせた学費免除生に選出され、留学環境が整いました。
しかし、ホッとしたのも束の間、本格的な論文執筆に入ると、英語を母語とする学生と同じ時間内で同じ結果を求められる環境に戸惑いを感じ、一人籠って勉強する時間と、考えを他者と共有する時間のバランスに悩む時期が到来します。イギリスの冬と相まった暗い時期からの脱出は、研究の積み重ねだけではなく、同じ研究所内の友人が持ち寄ったアフリカ系音楽(リンガラ、ハイライフ、ジュジュ、ボンゴ・フレーバー、レゲエなど)とともに食べて踊って語る会に定期的に参加し、自分を開放していくことが第一歩であったように感じます。
そのような経験から、私が担当する文科三類の英語演習「英語で読むアフリカ史」でも、グループワークを多く取り入れた共同作業による学習を重視しています。担当クラスの学生は、比較的ディスカッションに慣れている印象を受けますが、個々の発言頻度やモチベーションの差をいかに解消するのかが今後の課題です。
私が百年前の新聞をイギリスとナイジェリアでみていたように、もしかすると、この「教養学部報」を百年後にアフリカの研究者が史料として参照するかもしれません。そんなことを考えると、歴史研究もロマンに溢れるものに感じられるのではないでしょうか。
(地域文化研究専攻/英語)
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