HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報565号(2014年5月14日)

教養学部報

第565号 外部公開

〈理数系辞典案内〉数学

山本昌宏

辞典にはいろいろな使い方がある。とりあえずの必要に迫られて、用語の意味を辞典を使ってピンポイントで調べるだけではなく、辞典を拾い読みすると、思わぬことを見つけるかもしれない。年を経て一定の知識を得た後で辞典を読んでみると、若い時には気がつかなかったことに興味を持つこともある。そう、良い辞典は一生付き合う伴侶である。ここでは辞典として、数学用語に関する英和・和英辞書だけでなく、事典、ハンドブックなどやや広い範囲から紹介する。これらは、多くの先人達が実に長い年月の間に蓄積した数学の知識をきわめて凝縮した形で記述したものである。初心者向けのものから、プロが研究生活におけるきわどい日々を生き延びるために使えるものまでを、筆者が知っている範囲で紹介するが、もちろん完全なリストを目指しているわけではない。ここであげなかった辞典などでも良いものは数多くある。インターネットや図書館で調べられるはずである。

A.数学用語の英和・和英辞書:数学英和・和英辞典(小松勇作編,共立出版,1979年,358頁,3,000円)

用語自体の説明はないが、講義などで使われている術語は英語でなんというのかなと疑問に感じたときに調べると面白い。例えば数学用語の「行列」は英語の matrix の日本語訳ですが、もとの英語には日本語で「行列ができる....」という意味の「行列」の意味はありません。数学の多くの用語は明治期に英語などの翻訳で作られたのです。さらに研究論文は英語で書くのが普通なので、論文を書くときも役に立つ。

B.用語、概念を調べるための辞典:

①岩波数学辞典(第4版) (日本数学会,岩波書店,2007年,1976頁,15750円)数学の基礎から応用を含めて、専門的事項や最近の成果までを解説している。中項目主義をとっている。現行の第4版は第3版の20年ぶりの全面改訂版であり、特に応用分野の項目が増えた。両方の版を比べると最近の数学の変貌に気がつくかもしれない。なお、第2版の英語版もあり、世界的に定評がある。数学の研究者向けであるが、「読む」(あるいは、「読む」努力を払う)ことによって先端の数学の雰囲気に触れることができる。第3版の巻末の人名索引の生没年(または生年)の記述が第4版の人名索引では廃止されているのは個人的な興味からいって残念であるが、これは新規に多くの数学者の業績の説明が追加されたためであり、第3版以後の20年という年月の意味をうかがうことができる。
②現代数学百科(矢野健太郎訳補,講談社,1968年,579頁,590円)ブルーバックス・シリーズであったが、今は入手しづらい(古本屋などで入手できるかもしれない)。筆者は40年ほど手元において使っているので、個人的な好みもあるが、あえてここに挙げた。原書はドイツで出版されたもので大学初年次の程度までをカバーしている。初等的な範囲で公式集、数表も付いている。③数学辞典(一松信・伊藤雄二監訳,朝倉書店,1993年,664頁,24150円)原書は1942年出版の英語によるものである。なお、巻末の数学用語の英語対照表にフランス語、ドイツ語、ロシア語とそれとスペイン語まであるのは他には見られない特徴である。
④岩波 数学入門辞典(青本和彦・上野健爾・加藤和也・神保道夫・砂田利一・高橋陽一郎・深谷賢治・俣野博・室田一雄編,岩波書店,2005年,738頁,6720円)大学の数学までをわかりやすく解説している。⑤カラー図解 数学事典 (浪川幸彦・成木勇夫・長岡昇勇・林芳樹訳,共立出版,2012年,512頁,5775円)フルカラーの図と解説文をうまく連動させていることが魅力で、代数学、幾何学、解析学,応用数学の項目を解説している。原著はドイツの dtv-Atlasという事典のシリーズである。⑥現代数理科学事典 第2版(広中平祐編集委員会代表,丸善,2009年,1470頁,46200円)いわゆる応用数学の事典(辞典でなく)で、読むのに適した事典である。
⑦応用数学ハンドブック(藤原毅夫・平尾公彦・久田俊明・広瀬啓吉編,丸善,2005年,784頁,25000円)偏微分方程式、数値解析などの理工系の大学の4年次までで学習する内容を解説している。ハンドブックなので読んで学習するのによい。

C.公式集:

①数学公式 Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ(森口繁一・宇田川銈久・一松信著,岩波,1956年,各318・340・310頁,各2205円)微分積分、級数、特殊関数についての公式をカバーしている。入手しやすく、便利である。コンピュータが発達したからといってこのような公式集が不要になることはない。手元に是非置いておきたい。
②新数学公式集 I 初等関数(大槻義彦監修,室谷義昭訳,1991年,797頁,8240円)原著のロシア語の3巻本の公式集の一部の日本語訳で積分や級数の公式が7,000余り収められている。原著の3巻本は公式集としては最大のものの1つ。
D.番外:Handbook of Exact Solutions for Ordinary Differential Equations, (A.D. Polyanin, V.F. Zaitsev 著,Chapman & Hall/CRC,2003年,816頁,33810円)6,200余りの種類の常微分方程式の厳密解を列挙している。このようなハンドブックは他にも色々ある。図書館などで眺めていると色々と面白い。

(数理)
 

第565号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報