HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報565号(2014年5月14日)

教養学部報

第565号 外部公開

〈本郷各学部案内〉工学への招待:基礎と応用を両輪とする学問体系

大久保達也

565-H-4-3.jpg教養学部の皆さんは、「工学」という用語に随分と以前から慣れ親しんでいるものと思います。しかしながら、高校までの教育で「工学」に直接触れる機会は限られており、また工学部出身の教員も少ないため、「工学」の本当の姿が伝わらないままに大学に進学してくるケースがほとんどではないかと思います。

工学部は応用だけを教育・研究するところだという誤解をしていませんか? 基礎と応用を一次元の軸の両端にとると、このような理解になってしまいます。基礎の反対は非基礎、応用の反対は非応用として、基礎(+)と非基礎(-)を横軸、応用(+)と非応用(-)を縦軸に二次元で考えてみて下さい。工学部はこの第一象限にあたる、基礎×応用を教育・研究するところです。工学の対象は人々の営み(=社会)ですので、必然的に応用を意識したものになります。とはいえ、これに対する解を出すためには、その時点での最先端の科学を基盤とします。またそもそも基礎は新たな応用によって、より深められるものです。基礎と応用を両輪として、工学は進化してきているのです。

私の専門分野は化学工学です。皆さんも高校の化学で反応に関する勉強をしてきたものと思います。反応の中で詳細にすべてがわかっている例は極めて限られています。しかしながら、すべてがわからないと、ものをつくることはできないのでしょうか? ときにすべてがわからなくとも答えを出すことも工学の重要な任務です。エンジンを例に考えてみます。当初は経験的な知見の積み重ねからエンジンはつくられていましたが、最近では最先端の反応に対する知識を基盤に設計ができるようになってきています。エネルギー効率(燃費)や環境対応(排気ガス浄化)といった現代の課題に応えられないためです。

最近のノーベル賞においては、社会への貢献が意識されています。日本のノーベル化学賞の受賞者七名のうち五名が工学分野の出身(更に加えて一名は理学部出身で工学部教授)であることも、このことを示すいい例です。工学部は基礎と応用を教示し、社会に貢献する人材を排出してきましたが、この姿勢は今後も変わることはありません。

工学部は十六学科より構成されています。工学部の設立時より存続している学科もあれば、社会の要請により新たに創設された学科もあります。工学はその時代の社会を意識したものであるため、理学分野のみならず、医学・薬学・農学分野、社会科学分野との境界領域にも活発な展開がなされています。工学は基礎と応用を両輪としているために、このような展開が可能となるのです。

工学の対象の展開を反映して、卒業生の活躍する分野も大きく広がっています。多くの卒業生が国内外の企業において、工学の原点である「ものづくり」に貢献しています。また大学や研究所において、そのための基礎分野で研究を進めている卒業生も多数います。一方で工学の対象は社会そのものですので、「ものづくり」に加えて、「ことづくり」、更には「社会づくり」を産業界や公務員として進めている卒業生、更に最近では国際的機関で働く卒業生も増えています。博士課程を修了すると、よりグローバルな立場で活躍するチャンスが広がります。早い段階で学生を海外に派遣するプログラムもはじまっています(写真は昨年米国MITに修士一年生を派遣したときのもの)。

何故工学部の卒業生はこのように幅広い分野で活躍できるのでしょうか? 工学は基礎と応用を両輪としているため、スペシャリストであるとともにジェネラリストになることが可能となるためです。スペシャリストを目指す学生もジェネラリストを目指す学生も、是非工学部の門をたたいてもらえればと思います。

(工学部/化学システム工学)
 

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