HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報567号(2014年7月 2日)

教養学部報

第567号 外部公開

教養学部理系後期課程の歴史と将来に期待すること

小島憲道

東京大学教養学部後期課程は、二〇一一年に文系三学科(超域文化科学科、地域文化研究学科、総合社会科学科)、理系三学科(基礎科学科、広域科学科、生命・認知科学科)の六学科体制から教養学科、学際科学科、統合自然科学科の三学科体制に改組され、二〇一二年一〇月に新学科として内定生を受け入れました。この改組に伴い、相関自然部会は基礎科学科の運営責任母体の役割を終え、二〇一四年三月に解散しました。相関自然部会が解散したこの時期に、教養学部理系後期課程の歴史を振り返り、理系新学科に期待することについて述べたいと思います。

最初の教養学部理系後期課程である基礎科学科は、自然科学と科学技術の専門知識と研究能力を基礎として、新たな学際領域を切り拓く人材を養成することを教育目標として、一九六二年に設置されました。設置当時の一〇講座(基礎数学、基礎物理学、応用物性学、物理機器学、固体物理学、化学物理学、無機物性化学、有機物性化学、高分子科学、生体協関学)の名称を眺めてみると、基礎科学科が理学と工学の架け橋となることを目指した学科であること、また生命現象を物理・化学・生物学の連携によって解明することを目指す当時の姿勢が窺えます。

その後、自然科学の発展とともに、基礎科学科の目指す課題は変化していきましたが、一九九〇年代以降の基礎科学科における代表的な研究拠点として複雑系の科学があります。クォークの研究でノーベル物理学賞を受賞したゲルマン博士の著書『クォークとジャガー』の序文には、複雑適応系の研究拠点として東京大学教養学部基礎科学科が紹介されています。

一九七〇年代になると基礎科学科改組拡充の構想が進められ、一九八一年には基礎科学科第一と基礎科学科第二に改組され、翌年一〇月に新設の基礎科学科第二が進学内定生を受け入れました。一九九〇年代半ばには、大学院重点化の流れの下、駒場キャンパスに、文系および理系の大学院を束ねた大学院総合文化研究科が設置されましたが、理系においては、生命環境科学系、広域システム科学系、相関基礎科学系で構成された広域科学専攻が設置されました。

この大学院重点化と時期を同じくして、後期課程の改組が行われ、理系後期課程では、基礎科学科第一と科学史・科学哲学分科が加わった基礎科学科、基礎科学科第二と人文地理分科が加わった広域科学科、基礎生命科学分科と認知行動科学分科によって構成された生命・認知科学科が設置されました。

二一世紀になり、従来の縦割り型の学問体系では解決できない多くの難問が山積し、総合的視野を持った人材育成が望まれるなか、教養学部後期課程では大改革が行われ、六学科体制から文系三学科を統合した教養学科、理系三学科を改組した学際科学科および統合自然科学科の三学科体制に改組されました。

基礎科学科の科学史・科学哲学分科と広域科学科を統合した学際科学科は、「科学技術論」、「地理・空間」、「総合情報学」、「地球システム・エネルギー」の四コースに加えて「進化学」のサブコースで構成された文理融合分野をカバーする学科となり、科学史・科学哲学分科以外の基礎科学科と生命・認知科学科を統合した統合自然科学科は、「数理自然科学」、「物質基礎科学」、「統合生命科学」、「認知行動科学」の四コースに加えて「スポーツ科学」のサブコースで構成された特色のある学科になりました。

学際科学科および統合自然科学科の学生にとっては、学生時代に専門分野を極めながら異なる分野に関心を持ち、様々な分野で活躍する友人を持つことは、その後の共同研究や研究のアイデアの豊かさとなって実を結び、社会における活躍の場が大いに広がっていくことになるでしょう。それには教育上の仕掛けが必要です。三学科体制の下、所属する学科の主専攻に加えて副専攻を認定する制度ができましたが、多くの学生がこの制度を活用しており、頼もしい限りです。

ところで改組前の基礎科学科では、相関自然部会および科学史・科学哲学部会が運営の責任を担ってきました。このうち相関自然部会は後期課程の改組に伴ってその役割を終え、メンバーは二〇一四年四月から担当している前期課程科目に従って物理部会、化学部会、生物部会に分かれて行きました。長年にわたって数理科学・物理学・化学・生物学を専門とする教員の連携によって分野横断的な教育を行ってきた相関自然部会のメンバーは、今後、所属する部会間の垣根を低くし、統合自然科学科における分野横断的な教育の中心的な役割を果たしていくことを願っています。

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(相関基礎科学系/化学)

 

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