HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報569号(2014年11月 5日)

教養学部報

第569号 外部公開

なぜFLYなのか~初年次長期自主活動プログラム

真船文隆

569-B-2-1.jpgFLYプログラムが構想されて二年、実施されて一年半が経った。二〇一三年度にFLYプログラムを修了した学生が十一名、本年度活動中の学生が八名である。学内のみならず学外にもさまざまなメディアを通じて認知され浸透しつつあるFLYプログラムだが、そもそも「なぜFLYなのか?」という問いに複数の角度から答えてみたい。

●なぜFLYなのか?

FLYプログラムは、初年次長期自主活動プログラムの略称である。Freshers’ Leave Yearの頭文字をとってFLYであり、また、駒場キャンパスという場所に縛られないで、広く高く羽ばたいて欲しいという願いが込められているというのがおそらく公式見解である。本プログラムは、「教養学部の」ではなく、「全学の」プログラムである。したがって、運営母体は全学の教員が委員として参画するFLYプログラム推進委員会である。

また、入学直後で前期課程の学生を対象とすることから、教養学部長のもと運営委員会が設置され実務を行っている。その推進委員会の会議の中で、「初年次=First Year」で「休暇年度=Leave Year」あたりからなんとなく「FLY」が決まって、Freshers’ Leave Yearは後付けだったような記憶があるが、これは誤解かもしれない。修了生に手渡される修了証は、総長名で認定されている。あまたある全学プログラムの中でも例外中の例外で、それを受けた学生は、是非誇りに思ってほしい。

●なぜFLY(初年次)なのか?

高校では受験勉強に明け暮れ、二月下旬の大学入試で力を使い果たし、三月にめでたく合格の知らせを受け、四月の初旬から授業開始というのが、「現役」で合格した学生の姿であろう。立ち止まらない、走り抜けることのスマートさは確かに共感できる。ただ、何も考えずに流れに身を任せていても、あっという間に大学の四年間は過ぎていく。一度立ち止まって、何かをじっくり考える機会があってもよい。FLYプログラムとは別に、現在、学内では授業自体の履修カリキュラムを見直す動きもある。

そのなかで繰り返し強調されるのは、高校までの「学習」から「大学での学び」への転換である。受動的学習から能動的学習へ、正解のある問題から正解のない問いへ、学生が自覚的にシフトできているだろうか? その意味で、大学に入学したての初年次にプログラムに参加することは、大きな転換をはかるきっかけとなるのは間違いない。実際に、二〇一三年度の終了した学生からは、「一年間の休学から復学して授業を受けているが、授業が本当に楽しい」という感想も寄せられていて、これは学生本人にとっても、教える側の教員にとっても喜ばしいことである。

●なぜFLY(長期)なのか?

本プログラムの趣旨は、「大学生活を離れた多様な活動の体験を積む機会を提供し、支援しようとするもの」であり、さらに参考となる観点として、(1)長期性、継続性、(2)社会性、国際性、(3)公共性、規範性、が挙げられている。つまり学業の傍らでは経験できないような長期にわたる活動を通して、何かをつかんでほしいという願いが込められている。

二〇一三年プログラム修了生の場合、国内の活動を中心に据えたのは十一名中一名のみだが、彼は六月から翌年の三月にかけて被災地である釜石市でボランティア活動を行った。九か月にわたり腰を落ち着けて復興支援を体験し、自らを見つめ直す機会を得たことと思う。また、その他の十名は国内の活動に加えて数か月にわたる海外の活動を経験し、思考の幅を広げる何かを身につけたはずだ。

●なぜFLY(自主)なのか?

学生が一度立ち止まって、何かをじっくり考える機会があってもよいとはいうものの、入学直後に休学して結局一年間留年するのは避けられない。我々の年齢になれば、そんな一、~二年は全く不利にならないことはわかっているし、企業などの人事担当者に聞けば、「是非そういう人こそ採用したい」という答えが必ず返ってくる。ただ、十八歳と若い学生にとって、一年の休学という決断に躊躇したとしても不思議ではない。

大学としてできることは、FLYプログラムという仕組みを通じて、学生の背中をやさしく押すことだけである。一歩を踏み出した学生のためには、いくつかのサポートが用意されている。

第一に、担当教員制度である。学生が一年間を安全かつ有意義に過ごすために、計画の立案時から活動開始後も相談できる教員が複数名決められている。

第二に、緊急対応を含めた密な連絡体制である。教養学部の学生支援課職員を中心にプログラム参加学生との連絡体制が確立している。

第三に、特別休学制度である。大学は二年間の前期課程と二年間の後期課程からなり、その年限の二倍までは休学制度を活用して在学することができる。ただ、このプログラムについては特別で、この一年間は年限の二倍には含めないという意味で「特別」休学制度なのである。「授業が本当に楽しい」と思っている学生なのだから、年限の二倍など気にする必要はないかもしれない。一方で、国内外で一年間多様な経験を積んだ学生ならではかもしれないが、学生の間に「もっとこういうことをしたい」という思いを強くした学生も多いようだ。つまり、さらなる休学制度の活用も妨げないということである。

概して、教育プログラムは評価がとても難しい。長い時間をかけてじっくりと追跡調査をしないと効果が明確に見えない場合が多い。本プログラムに関して言えば、まだ開始して一年半にも関わらず高い評価を頂いているのではないかと思う。ただ、プログラムへの参加学生は、一学年三千二百名いる学生のうち十名程度、つまり千名あたり三名である。彼らが核になって、大きな波及効果を与えてくれることを願ってやまない。

(FLYプログラム運営委員会委員長)

 

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