HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報570号(2014年12月 3日)

教養学部報

第570号 外部公開

和田純夫先生を送る

加藤光裕

長きに亘って駒場の多くの学生達がお世話になった和田純夫先生が、ついにご定年を迎えられることになりました。

和田先生は、現在のポストにお就きになってから、留学生・帰国子女のためのゼミナールを毎学期開講され、理科・文科を問わず数学や物理に苦労する学生達の面倒を長年見てこられました。先生のご退職とともに、このゼミナールがなくなってしまうのはとても残念です。
また、物理講義のききどころシリーズやグラフィック講義シリーズを始め、教科書を多数著され、そのわかりやすい解説にお世話になった学生も多いはずです。その他にも、宇宙論や科学史関係の解説書等も多数お書きになっており、ネット書店等で検索するとたちどころに何十冊と出てきます。

和田先生のご活動は、素粒子論、量子宇宙論の研究をはじめとして、量子論の多世界解釈や科学論、科学史から理科教育にいたるまで、ご興味を年々広げられて研究・教育や啓蒙活動等をされてきました。総合科目の相対論の授業では、いつも教室から学生が溢れていました。

私の記憶が正しければ、私自身が和田先生と直接言葉を交わしたのは、四半世紀以上前のとある研究会での私の発表に、階段教室の最上段から和田先生が質問をされたのが、最初だったと思います。その時期、和田先生は英国ケンブリッジ大学のホーキング博士の下での研究生活から戻られた直後で、量子宇宙論のご研究に重点を置かれていました。

一方、私は重力の量子化に関するある問題を研究しており、それを当時量子宇宙論でよく使われていたミニ超空間模型に応用した発表をしたのだと記憶しています。それから数年後に、私も駒場の素粒子論研究室の一員として着任し、以来和田先生からは、研究室の同僚としてまた先輩教員として、色々と学ばせてもらいました。

素粒子論研究室は、素粒子論を専門とする教員数名と指導する大学院生を含むグループで日常の研究活動を行っています。従って駆け出しの修士課程一年生の教育も合同で行っていますが、私の指導学生達も皆、一番の基本である場の量子論のゼミを和田先生に見てもらってきました。私などよりも何倍も優しく指導して下さっていたと思います。

先生は、一見恐そうに見えることを気にしておられた記述をどこかで読んだ記憶がありますが、直接話してみると、実に穏やかで優しい人柄であることがすぐにわかります。会議等でも、いつも学生の立場を考えてご発言なさる姿を長く見てきました。現在進行中の総合的教育改革でも、気がかりなことがきっと沢山おありなのだろうと思いますが、あまり口を挟まず若い世代に任そうとされているのだと推察しています。

東大をご退職なさっても、執筆活動には定年はありませんので、これからも科学の面白さをわかりやすく解説していって下さると確信しています。和田先生、長い間ありがとうございました。そして今後の益々のご活躍を期待しております。

(相関基礎科学系/物理)

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