HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報571号(2015年1月14日)

教養学部報

第571号 外部公開

吉岡大二郎先生を送る言葉

清水明

吉岡先生は、物質の量子力学的な振る舞いを理論的に解明するお仕事で、多くの業績をあげられました。特に、「分数量子ホール効果」に関するお仕事は世界的に有名です。

分数量子ホール効果とは、たくさんの電子を二次元に押し込めて(上下方向の運動を禁止して前後左右だけの運動を許して)強い磁場をかけた時に生ずる、とても奇妙な現象です。このとき、個々の電子は、強い磁場のために微小な輪のような軌道に閉じ込められ、その輪の中心が移動することだけが電子に許された「自由度」になります。たくさんの電子を閉じ込めたので、そのような輪がたくさんできて、うごめいている、そんな二次元世界ができるのです。ところで、電子は電荷を持っているので、電子と電子の間には、クーロン反発力が働きます。そのために、たくさんの輪が、押し合いへし合いながらうごめきます。輪と輪の平均間隔は(輪の数=電子の数なので)電子の密度で決まります。

そこで、電子の密度を変えながら観察すると、電子の密度が「これ以上は入らない」という最大値の三分の一に達したときに、電子達が奇妙な振る舞いを示すようになります(他の分数値でも生じることがあります)。たくさんの輪が押し合いへし合う海のような状態ができるのですが、その海にさざ波を立ててみると、そのさざ波が、まるで、電子の電荷の三分の一という半端な電荷を持つ「粒子」であるかのように振る舞うのです。これが分数量子ホール効果(における顕著な現象)です。吉岡先生は、コンピュータで二次元電子達の量子力学的振る舞いを解析することにより、世界に先駆けて、この現象を理論的に明らかにされたのです。

「こんな難しい理論を研究する先生は、どんな講義をするのだろうか?」という興味がわいてきますが、吉岡先生は、きっちりとした講義をされることで有名です。そのため、まじめに勉強する学生の間では、とても判りやすいと好評です。つまり、自他共に認める素晴らしい講義です。もちろん、まったく勉強しないで試験を受ける学生も一定の割合で出てきます。そういう学生には「おまけ」の点をあげるような甘いことはしないで躊躇なく不可を付ける先生としても有名で、学生達の評価はいつも「大鬼」でした。素晴らしい講義をして、まったく勉強しない学生に不可をつけるのは、至極当然なことですが、それを、堂々と「大鬼」の勲章を付けて実行できる先生は、最近は少なくなってきたように思います。我々も、吉岡先生に習って大鬼になる必要があります。

吉岡先生はまた、オルガン委員会で活躍するクラシック愛好家であり、スポーツカー(マツダ・ロードスター)を乗りこなすかっこいい先生です。このような、研究面でも教育面でも他の面でも、あらゆる面で「カッケー」先生が駒場を去るというのは、実に残念です。御退職後も、ひょっこり部屋を訪れてくださることを、後輩一同、心待ちにしております。

(相関基礎科学系/物理)

 

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