HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報574号(2015年5月13日)

教養学部報

第574号 外部公開

<後期課程案内>統合自然科学科

前田京剛

http://www.integrated.c.u-tokyo.ac.jp

研究室で研鑚を積み、研究活動で苦楽をともにした大学院生が博士や修士の学位を取得して巣立って行き、また、学科でも、多くの卒業生がさらなる飛躍を目指してそれぞれの道へと旅立つ三月は、どこか寂しく、もの悲しい月であった。学会も終わり、満開の桜とともに、四月になると、一転、キャンパスは希望に満ちた新入生たちであふれかえる。毎年繰り返されることではあるが、我々教員も、この四月の活気あふれるキャンパスの中に身を置くたびに気持ちを新たに、新しい年度の研究・教育活動へと向かう。

東京大学の前期課程の学生諸君の最大の関心事は、後期課程への進路選択であろう。進路選択を考える際是非忘れないでいただきたいのが、前期課程の学生諸君が毎日の生活を送っている駒場キャンパスにも、後期課程の学科、特に理系のハイクオリティーの学科があるということである。それが、統合自然科学科に他ならない。

統合自然科学科の目指すものは、二〇年、三〇年後のわが国の、あるいは世界の自然科学研究・技術開発の分野をリードできる人材を育成することである。現在の自然科学、あるいは技術開発に対する社会の要求は増々高度化かつ多様化しており、既成のカテゴリーの教育を受けた者ではそれらに適切に応えられなくなっている。統合自然科学科では、既成の分野のきっちりした学習により、高い専門性を身に着けてもらうことを行いながらも、それだけでなく、複数の学問領域を学ぶ機会も用意し、これらの複数の学問分野を自由に越境・横断する力を身に着けてもらう。これにより、多様な自然科学の知を統合し、新たな領域を開拓できる人材、すなわち、二〇年、三〇年先に、新たな分野を創成し、リードできる、真の「未来型の自然科学者・技術者」の卵を養成するのが、統合自然科学科の使命である。

これらの理念が絵にかいた餅ではないということは、本学科の土台の一つとなった基礎科学科からは、オートファジー発見者でありノーベル賞候補者として話題になっている大隅良典現東工大教授や、元国立天文台長の海部信男博士、f-MRI開発者である元日立基礎研究所所長の小泉英明博士など、まさに、新たな分野を切り開いた世界の第一人者を多く輩出していることを見てもお分かりいただけると思う。

以下、もう少し具体的に学科の構成を説明しよう。統合自然科学科は、「数理自然科学」、「物質基礎科学」、「統合生命科学」、「認知行動科学」に加え、本学でも独自な「スポーツ科学」サブコースが加わった五コースからなる(学科のロゴは、五つのコースがジクゾーパズルのピースとして組み合わさったデザインになっている)多彩な講師陣によるカリキュラムが提供される。

「数理自然科学」コースは数学的な概念の理解を深めつつ、自然現象の背後にある数理的本質・構造の理解に取り組む。現在、各学問領域や産業界では数理科学の重要性が再認識されており、その新たな展開を行う人材の育成を目指す。

「物質基礎科学」コースでは、物理や化学の基礎的概念・発展的概念を学び、それを用いた新しい学問を開拓する人材の育成を目指す。素粒子や超弦論・相対論・量子論や物性物理学、情報熱力学、分子物性化学、合成化学、錯体論、表面化学などが、学生各人の嗜好に応じて学ぶことができる。数理や生命系との統合的な展開を図る教員も多く、分野の先進性が高い。

「統合生命科学」コースは、分子や細胞レベルの伝統的な生物学から、植物科学、ゲノム・エピゲノム科学をはじめ、バイオテクノロジー、再生・生殖科学、医・脳科学などの非常に広い領域をカバーする。そして合成・システム・数理生物学の分野の教員が、本学でも充実しているのがこの学科である(文部省「複雑生命システム動態拠点」の支援を受けている)。

「認知行動科学」コースでは、人間の認知機能や心理・行動の特徴とその成立の仕組みを明らかにすることを目指し、また進化や適応の観点から人間科学を深く理解しようとしている。

「スポーツ科学」サブコースは、人間の身体活動を運動生理・生化学、バイオメカニクスなどの観点で捉えることで、トレーニングや医療に活かす学問領域を育てている。

統合自然科学に進学すると、科目選択の自由度が高く、他コースや文系の科目などを柔軟に取得できる。実験が好きな人は実験を多めにできるし、逆に座学中心に科目を選択することも可能だ。所属コース以外の科目や、サブコース科目を二十四単位以上取ることで「副専攻」が取得できる。実際、大多数の学生が、学位記に加えて、「副専攻修了証」を手に卒業する。卒業研究はコースに限定されず、一定の基準を満たせば自分の好きな研究室で実施できる。研究室の数は所属学生に比べて多いので、学生の研究室選びも自由度が高い。

卒業生は、駒場(総合文化研究科)や本郷の大学院に進学する学生が多く、最終的には大学教員、公的機関の研究員、官公庁の専門職をはじめ、製造・金融・商社・コンサルタント・情報通信・製薬・マスコミ・出版など各種の企業に就職し、多彩な活動をしている。
前述の理念の下、駒場の理系教員の一人一人が、学生に非常に近い立場で教育指導に当たるユニークな学科なので、是非ガイダンスやホームページを訪れてみて欲しい。

(相関基礎科学/物理/統合自然科学科長)

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