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最終更新日:2018.07.09

教養学部報

第577号 外部公開

第23回身体運動科学公開シンポジウム報告

進矢正宏

2015年6月6日(土) 於・21 KOMCEE East 大ホール(K011)

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パネリスト間で熱心な討議が行われた
2015年6月6日(土)、身体運動科学公開シンポジウムが21KOMCEE East大ホール(K011)において開催された。1993年から毎年開催されている本シンポジウムは今回で第23回目となり、タイトルは、「運動・トレーニングの効果に関わる物質と栄養」であった。午前11時からは大学院生とポスドク研究員によるポスター発表が、午後1時からは石井直方教授のイントロダクションに続いて、身体運動科学研究室の助教・准教授4人が講演を行った。以下にそれぞれの内容を、簡単にではあるが、紹介したい。

午前のポスター発表では、身体運動科学研究室の様々な分野の大学院生が合計12題のポスターを掲示した。本大学院の受験を検討している学生にとっては、午後の講演とは違い、研究の最前線にいる大学院生が実際にやっていることにじっくりと触れ、直接質問等ができたのがよかった、という感想をいただいた。また、院生同士でも、研究分野を超えて意見を交換し、他分野の人に自分の研究の意義を伝えるよい機会となったのではないだろうか。

午後1時からの講演は、石井直方教授による「イントロダクション:トレーニング効果の物質的基盤」から始まった。生命を構成する物質として、糖質・脂質・タンパク質・核酸等を挙げ、これらがどのように筋・骨・神経などからなる身体を構成し、その身体にエネルギーを供給し、身体における情報伝達に如何に関わるのか、を理解することが生命科学として重要であることを示し、それぞれの分野の最新の知見を解説する四人の先生方へのイントロダクションとした。

北岡裕助教は、「骨格筋ミトコンドリア新生に関わる物質と栄養」について講演した。速筋線維や遅筋線維といった骨格筋の酸化能力の特性を決定する要因として、身体にエネルギーを供給する骨格筋のミトコンドリアの量を挙げた。さらにミトコンドリアの量を制御する転写補助因子であるPGC-1αを挙げ、PGC-1αの発現量がトレーニング・温熱刺激・活性酸素などによってどのような影響を受けるかについて最新の知見を中心に紹介した。

小笠原理紀助教は、「骨格筋量調節に関わる物質と栄養」について講演した。まずは、骨格筋量が、筋タンパク質の合成量と分解量のバランスによって調節されることを示した。その上で、廃用性萎縮のような骨格筋量減少局面や、レジスタンストレーニングのような骨格筋量増加局面において、タンパク質やアミノ酸がどのように関与するのかというメカニズムについて紹介した。
寺田新准教授は、「脂質によってパフォーマンスは向上するのか?─スポーツ栄養学の新たな可能性─」と題して講演を行った。脂質は糖質やタンパク質と並び三大栄養素と呼ばれるが、これまで健康やスポーツパフォーマンスに悪影響を及ぼす存在として語られることが多かった。この講演では、こういった従来の典型的な脂質観を脱し、骨格筋ミトコンドリアの増加、筋グリコーゲンの回復、骨格筋萎縮抑制といった機能があることを説明した。講演の後の質疑応答でも様々な質問が出たのに対して、何を食べれば体にいいといった短絡的な考え方に釘をさしつつも、脂質の役割について考えることの重要性を説明していた。

柳原大准教授は、「運動スキルの神経基盤と関連する脳内栄養物質」に関する講演を行った。まずは、大脳基底核・小脳・大脳皮質といった脳において運動制御に関わる領域と、それらの間の信号のやり取りをする経路に関する知見を紹介した。それらのバランスが崩れている状態として、パーキンソン病を挙げた。そして、このような脳内の情報伝達の基盤となる神経伝達物質や、シナプスの維持・再生に関わるタンパク質や脳由来神経栄養因子に関する説明を行った。

講演が終わった後には、パネルディスカッションが行われた。会場からは、研究手法や、より詳細なメカニズムに関する専門的な質問に加えて、科学的な研究成果を世間にどのようにアウトリーチしていくのか、科学的なエビデンスと市場のニーズをどのように両立するべきか、また一般の人は科学的な成果をどのように解釈するべきか、といった議論が行われた。本シンポジウムを通して、少しでも多くの人が、ヒトの運動に関わる基礎科学研究に触れるとともに、巷に溢れる科学的あるいは科学的に見えるデータや商品広告を、フェアに解釈することの重要性と難しさを理解していただけたとすれば幸いである。

(生命環境科学系/スポーツ・身体運動)
 

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