HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報581号(2016年2月 3日)

教養学部報

第581号 外部公開

送る言葉 ─石井志保子先生を送る─

高木俊輔

ヴァイタリティー溢れる石井先生

石井先生のお名前を知ったのは、私が学部二年生のとき、生協の書籍部で平積みされていた石井先生の御著書『特異点入門』を目にしたときでした。高校生のときに廣中平祐先生の講演会に参加したことがあり、「特異点」という言葉に聞き覚えがあったため、タイトルに惹かれて購入しましたが、当時の私には難しく、すぐに読むのを諦めてしまいました。その後数学科に進学し、代数学の基礎を身につけた上で『特異点入門』に再挑戦していた頃、ふとしたきっかけで、「特異点セミナー」と呼ばれる、日本中から特異点論の専門家が集まるセミナーに参加させていただくことになりました。このセミナーは1970年代に始まり現在まで続く歴史あるセミナーで、当時から石井先生は中心的メンバーの御一人でした。期せずして石井先生とお会いする機会に恵まれたわけですが、石井先生は初対面の学部生にも丁寧に接してくださりました。その一方で、セミナー中の石井先生の真摯な態度を拝見して、身の引き締まる思いがしました。

石井先生の御専門は特異点論ですが、一口に特異点論の研究者といっても、可換環論、代数幾何、トポロジー、複素幾何など、その背景は様々です。石井先生は代数幾何を背景としながら、多くの国際研究集会をオーガナイズされるなど、特異点論の研究者を繋ぐ架け橋としてもご活躍されてきました。それというのも、石井先生が多岐に渡る優れた業績を挙げていらっしゃるからだと思います。個人的には、Du Bois孤立特異点に関する一連の結果や四次元以上のNash問題の否定的解決などが、特に素晴らしいお仕事として印象に残っています。

石井先生の印象を一言で表すならば、「ヴァイタリティー溢れる」でしょうか。専攻長などの学内業務でお忙しいときでも、石井先生は毎回のように特異点セミナーで講演されており、そのヴァイタリティーにはいつも圧倒されます。また石井先生が学生の頃は、今よりも女性研究者の数が少なく、キャリア支援も十分ではありませんでした。しかし、困難に直面する度に、石井先生は持ち前のヴァイタリディーでそれを乗り越えてこられました。例えば、九州大学に助手として勤められた際、石井先生は週の半分を東京、もう半分を福岡で暮らす生活を続け、子育てと研究を両立させたそうです。

その石井先生が退職されるときが近づいてきてしまいました。せっかく同僚になれたので、色々と教えていただこうと思っていたのに、なぜもっと早く行動に移さなかったのかと自分の怠慢を悔いています。ただ石井先生は、東京大学退職後も、日本を代表する特異点論研究者としてご活躍されることは間違いありません。ですので、今後も特異点セミナーや研究集会等でご指導いただけるものと期待しています。石井先生の今後の健康とますますのご活躍をお祈りして、送る言葉とさせていただきます。

(数理/数理)

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