HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報582号(2016年4月 1日)

教養学部報

第582号 外部公開

「渋谷土産」を創る ─ブランドデザインスタジオ 2015年秋学期プログラム報告─

真船文隆

「最近、渋谷を訪れる外国人が多くなったけど、渋谷にはこれといえるお土産がない」という長谷部健・渋谷区長の一言で、二〇一五年度のAセメスターのブランドデザインスタジオのテーマは「渋谷土産をブランドデザインする」となった。本文を読み進める前に、一度、「自分だったら、渋谷のお土産として、何を提案するか」を、まず考えてみてほしい。

ブランドデザインスタジオは、教養教育高度化機構の社会連携部門にあって、教養学部と株式会社博報堂の教育連携プログラムである。21 KOMCEEが完成した二〇一一年の冬学期から開始され、始めは試行プログラムとして、二〇一二年の夏からは、全学自由ゼミナールの正式な授業として開講されている。広告会社の博報堂がなぜ? と思われるかもしれない。連携先の博報堂ブランドデザインは、いわゆる「共創」を通じたブランドディング(博報堂のコンサルタントがファシリテーターとなって、依頼者と一緒にアイデアを創出する)を業務としており、日々行っていることを大学のゼミとして展開してみようという、我々の一つの挑戦でもある。

ブランドデザインスタジオでは、「正解のない問いに、共に挑む」ことを掲げており、ここには二つの教育的なねらいがある。正解の決まった問題に一人で取り組めば、最も早くスマートにたどり着ける東大生たちに、あえて「決まった答えのないテーマ」に取り組んでほしいということ、もう一つは、一人ではなくて、チームで考える共創の手法を身につけてほしいということである。チームのメンバーとの相互作用の中で、何かを学び合い、創出し、合意形成していく共創を大事にしていることもあって、チームのメンバーの多様性を広げるために、二〇一五年度より、東京藝術大学の学生にも参加してもらっている(ただし、単位は付与できない)。

この間、「東京タワーのリブランディング」「新聞の未来をブランドデザインする」「東京オリンピックを市民参加でブランドデザインする」などをテーマとして取り上げた。スカイツリーが完成して、日本一の電波塔の地位を奪われた東京タワーだが、東京のまさに中心に位置し、東京タワーに、より愛着を感じる人が多い。東京タワーをもっと魅力的にするにはどうしたらよいだろうか? インターネットの普及により、新聞の立ち位置が明らかに変わりつつあり、購読者も減少の一途をたどっている。生活者の目線で見た時に、未来の新聞がどうあれば魅力的なものとして受け入れられるだろうか、などである。

どんなテーマであっても、ブランドデザインスタジオでは、必ず決まったアプローチの仕方をする。インプット、コンセプト、アウトプットからなる「リボンフレーム」である。まず、インプットでは、なるべく多くの情報を取り入れ、それらを整理する。関連する文献を読むことはもちろん、インターネットを活用した情報取集、現場に行って観察するフィールドワーク、関係者へのインタビューなどである。感性を研ぎすまして、何か新しいことに「気付く」ことを大事にしている。例えば、「渋谷のハロウィンには、人に埋もれている匿名性の安心感がある」、「渋谷の交差点には、信号が赤から青に変わる、その待ち時間にワクワク感があるのでは?」、「渋谷の街には、若者文化の痕跡が多く残っているが、これは共感に対する欲求のあらわれでは?」などである。
これらの多くの情報を統合してコンセプトを作る。コンセプト作りがいつも一番難しく、学生が必ず躓いて、落ち込むところである。よいコンセプトには、アイデアを生み出す起爆力がある。有名な例として授業でも取り上げられるのが、スターバックスコーヒーの「(職場とも、家とも違う)第三の場所」、アップルの「誰でも使えるコンピューター」である。今回のテーマで、学生が考えたことは、「渋谷にはハートに火を灯してくれる誰かがいる」「一生大切にしたくなる渋谷」「渋谷はカルチャーの積み重ねでできている」などであった。

コンセプトをもとに、アイデアを考える。一転、ここが一番楽しいところでもある。ただ、ついつい、これまで考えたコンセプトから離れて、アイデアが独り歩きをしてしまうケースが多い。リボンフレームの流れが一貫していることの重要性を、我々が強調するところでもある。

学生が考えたアイデアは、最後にプレゼンテーションしてもらう。それを監修の先生方、外部の方々が評価して、いちおう順位を付けて発表する。今回は全部で一〇チームが参加したが、そのうちもっとも評価の高かったチームのアイデアを最後に紹介しよう。やはり渋谷といえば、スクランブル交差点。観光で渋谷に来る外国人観光客には、あれだけ多くの人が一度に交差点を渡りながら、なぜ事故が起こらないのか不思議でしょうがない。警察署に問い合わせたところ、これまで事故が起こったことは聞いたことがなく、したがって統計なども取ったことがない。つまり、「日本一安全でぶつからない(……)交差点」なのである。そこで、お土産のアイデアとして交差点を形どった「お守り」。交通安全にご利益があるばかりでなく、お客さんとも「ぶつからない」ことから、商売繁盛にもご利益があるはず。明治神宮に確認したところ、外国人観光客にも、持ち運びやすく、和の感じがあふれたお守りは大人気ということ。みなさん、渋谷のお土産として、おひとついかがでしょうか?

(相関基礎/化学)

 

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