HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報583号(2016年5月11日)

教養学部報

第583号 外部公開

<理数系辞典案内2016>数学

山本昌宏

皆さんは、これから、「数学」をより確固とした基礎の上で学んでいく。微積分や線型代数は基本中の基本で、現象を定量的に考察していく際に頼もしく強力な武器である。一方で、近年になって益々複雑化・多様化する現実の問題の解決に、数学のもつ高度に抽象的・一般的な知見・思考様式の威力に注目が集まり、数学自体の範囲や使われ方も拡大している。そこで、皆さんの長期的・広範囲な視野のために、即効性のある辞書だけではなく、数学の応用に関するハンドブックのようなものも挙げる。教養課程のうちに数学自体の学習はもちろんのこと、広い興味をもって数学と他分野の関わりにも関心をもってもらいたい。さらに、人によっても馴染みやすい辞典なども異なるので、なるべく多く紹介したが、いずれにせよ、筆者の知っている狭い範囲からしか挙げておらず、数多くの優れた辞書、事典、ハンドブックが漏れてしまったと思う。インターネットや図書館でもさらに調べられるはずである。

 日々の必要に迫られて辞書をひくだけではなく、若いうちに広く事典やハンドブックのようなものにも目を通しておくと、一定のキャリアを積んだ後で大いに役立つ。したがって、これらの本の内容は4月から始まる講義の学習を助けてくれるものから、プロが研究生活におけるきわどい日々を生き延びるために使えるものまでを含む。良い辞典は一生付き合う伴侶や頼りがいのある同志のようなものである。

 以下であげる辞書や辞典、事典、ハンドブックは、多くの先人達が実に長い年月の間に蓄積した数学の知識を凝縮した形で記述したものである。そのような数学における真理は厳密な証明を経て確立された定理であり、未来永劫、変わることのない不変のものである。

A.数学用語の英和・和英辞書

①「数学英和・和英辞典」(小松勇作編、共立出版、1979年、358頁、3,000円)

②「数学用語英和辞典」(蟹江幸博編、近代科学社、2013年、400頁、3,240円)用語自体の説明はないが、講義などで使われている術語は英語でなんというのかなと疑問に感じたときに調べると面白い。例えば数学用語の「行列」は英語のmatrixの日本語訳ですが、matrixに日本語で「行列ができる」という意味の「行列」の意味はありません。また、数学で使われる英単語は日常語と異なる意味で使われることがけっこうあるので、その確認にも便利である。さらに研究論文は英語で書くのが普通なので、論文を書くときも役に立つ。

B.辞典、事典、ハンドブック

①「岩波数学辞典(第4版)」(日本数学会、岩波書店、2007年、1976頁、15,750円)数学の基礎から応用を含めて、専門的事項や最近の成果までを解説している。現行の第4版は第3版の20年ぶりの全面改訂版であり、特に応用分野の項目が増えた。両方の版を比べると最近の数学の変貌に気がつくかもしれない。なお、第2版の英語版もあり、世界的に定評がある。数学の研究者向けであるが、「読む」(あるいは、「読む」努力を払う)ことによって先端の数学の雰囲気に触れることができる。第3版の巻末の人名索引の生没年または生年の記述が第4版の人名索引では廃止されているのは個人的な興味からいって残念であるが、これは新規に多くの数学者の業績の説明が追加されたためであり、第3版以後の20年という年月の意味をうかがうことができる。

②「現代数学百科」(矢野健太郎訳補、講談社、1968年、695頁、590円)

 ブルーバックス・シリーズであったが、今は入手しづらいが(古本屋などで入手できるかもしれない)、筆者は40年ほど使っているので、あえてここに挙げた。原書はドイツ語で大学初年次の程度までをカバーしている。初等的な範囲で公式集、数表も付いている。

③「岩波 数学入門辞典」(青本和彦、上野健爾、加藤和也、神保道夫、砂田利一、高橋陽一郎、深谷賢治、俣野博、室田一雄編、岩波書店、2005年、738頁、6,720円)大学の数学までをわかりやすく解説している。

④「カラー図解 数学事典」(浪川 幸彦・成木 勇夫・長岡 昇勇・林 芳樹訳、共立出版、2012年、512頁、5,775円)フルカラーの図と解説文をうまく連動させていることが魅力で、代数学、幾何学、解析学、応用数学の項目を解説している。原著はドイツのdtv-Atlasという事典のシリーズである。

⑤「現代数理科学事典 第2版」(広中平祐編集委員会代表、丸善、2009年、1,470頁、46,200円)いわゆる応用数学の事典(辞典でなく)で、読むのに適している。

⑥「応用数学ハンドブック」(藤原毅夫、平尾公彦、久田俊明、広瀬啓吉編、丸善、2005年、784頁、25,000円)偏微分方程式、数値解析などの理工系の大学の4年次までで学習する内容を解説している。ハンドブックなので読んで学習するのによい。

⑦「プリンストン数学大全」(砂田利一、石井仁司、平田典子、二木昭人、森真監訳、朝倉書店、2015年、1,192頁、19,440円)多くの錚々たる世界的な数学者が執筆した総合事典であり、項目によっては詳しい解説もある。

C.公式集

①「数学公式Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ」(森口繁一、宇田川銈久、一松信著、岩波書店、1956年、各318、340、298頁、各2,205円)微分積分、級数、特殊関数についての公式をカバーしている。入手しやすく、便利である。コンピュータが発達したからといってこのような公式集が不要になることはない。手元に是非置いておきたい。

②「新数学公式集Ⅰ 初等関数」(大槻義彦監修、室谷義昭訳、丸善、1991年、797頁、8,240円)原著のロシア語の3巻本の公式集の一部の日本語訳で積分や級数の公式が7,000余り収められている。原著の3巻本は公式集としては世界最大のものの1つ。

D.番外

①「世界数学者人名事典(増補版)」(千田健吾、山崎昇訳、大竹出版、2004年、726頁、9,720円)、「世界数学者事典」(熊原啓作訳、日本評論社、2015年、692頁、6,500円)ともに古今東西の著名な数学者の略伝である。講義で名前が出てくる数学者自身について知りたいときに便利。また無味乾燥と思える数学も、当たり前であるが、それぞれ個性的な人間の創ったものであることに想いを寄せる際のよすがともなる。

②「Handbook of Exact Solutions for Ordinary Differential Equations」, (A.D. Polyanin, V.F. Zaitsev 著、Chapman & Hall/CRC, 2003年, 816頁, 33,810円)6,200余りの種類の常微分方程式の厳密解を列挙している。このようなハンドブックは他にも色々ある。図書館などで眺めていると色々と面白い。

(数理)

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