HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報583号(2016年5月11日)

教養学部報

第583号 外部公開

<本郷各学部案内>医学部

医学部長 宮園浩平

医学の魅力・医学部の魅力

http://www.m.u-tokyo.ac.jp

現代の医学は目覚ましい勢いで進歩しています。しかし未だに医学には未知の部分が多く、それだけに医学は私たちにとって重要かつ魅力的な学問です。私たちは、これから医学部に進む皆さんに、未来の医学を背負う、志の高い医療人・医学者を目指してほしいと願っています。

医学にはヒトの体の仕組みや病気の発症機序を学ぶ「基礎医学」、疾患の診断法や治療法を開発する「臨床医学」、集団や社会として健康を守ろうとする「社会医学」、高齢者や介護を要する人々の生活の質や機能を向上させることを目指す「介護、看護学」、発展途上国への医療援助や感染症などのワクチン開発・普及に関わる「国際保健学」など幅広い分野があります。多くの学問がある中で医学の最も大きな特徴は、自然科学であると同時に、人間を対象とした、人間や社会との接点が大きい学問であることです。

医学部は人体の仕組みや病気の発症機序を学び、医師免許を取得することを目指す「医学科」(百十名)と、病気の予防や、社会、環境との関係で疾患を考える分野、さらに介護や健康の科学を創造する「健康総合科学科」(四十名)の二つから構成されています。医学部の教育は教養二年のAセメスターから始まります。医学科では最初の一年半は主として基礎医学と社会医学の講義と実習を行います。医学科の二年生からは臨床医学の講義と病院での実習が始まります。健康総合科学科では様々な講義・実習を行い、健康科学かあるいは看護学の道を選ぶこととなります。看護学を学んだ人は臨床経験を積んだ後に全国の大学や病院で指導的な看護師や教員として活躍しています。我が国では最近は高齢者がますます増加し、高齢社会から超高齢社会へと移行しようとしています。そうした中で「健康」をテーマとした健康総合科学は今後ますます必要とされる学問領域となっていくと期待しています。

東京大学医学部は現在の医療の現場の第一線を担う医師を養成することはもちろんですが、さらに明日の医学・医療を切り開く優れた研究者を養成することを大きな目標としています。2014年9月にはノーベルダイアログシンポジウムが東大医学部で開催され、2005年にピロリ菌の研究でノーベル賞を授賞されたBally J. Marshall先生をお招きし、学生たちも大いに刺激を受けました。今年度はスウェーデンのカロリンスカ研究所や米国シカゴ大学との交流も活発に行われる予定で、こうした国際交流も盛んに行われています。医学部では学生は高度の専門的な知識を得ることを要求されると同時に、卒業後は学んだ医学知識を実践で活用することが必要とされます。医学部の学生は高校生のとき以上に勉強し、最新の知識を吸収することが必要とされます。勉強に留まらず、様々な経験を通し、東大医学部の学生の皆さんには、医学・健康総合科学の最先端の研究に携わる研究者が数多く生まれてくることを期待しています。

私が専門としているがんの研究について考えてみましょう。がんの研究者が一般の方からよく受ける質問に、「一滴の血液でがんが診断できるようにならないのですか?」、「がんの特効薬はできないのですか?」というものがあります。これに対する一般的な答えは「No」です。がんは多くの種類があり、その原因も異なりますので診断法も治療法もまちまちです。一つの診断法や一つの薬ですべてのがんを見つけて治すことはできません。しかし医学の進歩によって人類は(たとえば慢性骨髄性白血病など)かつては不治の病であったいくつかのがんについてその原因を解明し、特効薬ともいうべき薬を開発してきました。またある種の肺がんは特定の遺伝子の異常が原因で起こることがわかっており、これらの肺がんには進展を顕著に抑える薬が開発されています。さらに最近ではがんに対する新たな免疫療法(免疫チェックポイント療法と呼ばれています)が登場し、一部の患者さんには劇的な効果があることがわかってきました。つまりある種のがんについては先の二つの質問に対する答えは「Yes」ということができます。治りにくい難治性のがんを一つずつ克服していくために多くの研究者が現在も日夜研究を続けています。一つの疾患の原因を明らかにし、その治療法を開発するためには多くの場合、数十年の年月を要します。私たちはこれから医学を目指す学生の皆さんに、これまで人類が獲得してきた成果を引き継ぎ、医学・医療の発展のために活躍していただくことを願っています。

(医学部長・医学系研究科長)

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