HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報586号(2016年10月 4日)

教養学部報

第586号 外部公開

<時に沿って>「勉強」との出会い

西村もも子

平成28年4月16日付けで、総合文化研究科国際社会科学専攻助教に着任しました。数年ぶりに駒場キャンパスに戻ってきてみると、真っ白な近代的な新しい建物が次々と建てられ、すっかり様変わりしていました。その中でも苔や蔦に覆われたくすんだクリーム色の相変わらずの建物を見つけてはほっとしつつ、新鮮な気持ちで毎日を過ごしています。私は国際関係論、特に国際政治経済学を専攻しています。今日、国際社会では様々な国際経済制度が構築されていますが、それらの制度は市場を通じて自ずと作られるものではなく、その形成時に展開される政治過程が大きな影響を及ぼしています。国際経済の様々なアクターが国際経済制度の形成に影響を与えるのはどのような場合か、またその影響は国際経済制度の内容にどのような影響を及ぼすのかという点に焦点を当て、研究を進めています。

思い返せば、私が研究生活に入るきっかけを得たのは、本郷に進学してからのことでした。駒場ではほとんどの時間をサークル活動に費やし、定期試験が近づくと急いで周りの友人の助力を得て準備をするという生活を続けていた私は、本郷で何となく入ったゼミの先生の研究室に、ある日、突然呼び出されました。そこでその先生がおっしゃった一言が「もっと勉強しなさい」というものでした。確かにそれまでの私は学生生活を楽しむことに重点を置いたものでしたが、高校時代から勉強だけは他人に言われずとも頑張ってきたつもりでいたので、大学生になって勉強をしなさいと叱られた、しかも東大の先生に言われたという事実に大きなショックを受けました。残念ながらその先生は若くしてお亡くなりになり、なぜあの時、貴重な時間を割いてまで私に勉強しなさいという一言をくださったのか、お聞きすることはできませんが、その後の私の人生を大きく変えてくださったと心から感謝しています。その後、「勉強」するとはどういうことなのか、「勉強」探しの旅が始まりました。当時、設立されて間もない世界貿易機関(WTO)に関心を持ち、大学院に進んで国際法を専攻したものの何かピンとくるものを感じることができず、専攻を国際政治に変えて駒場の国際関係論コースに入り直すという紆余曲折の研究生活を経て今に至っています。その中で見つけ出したのは、大学で「勉強」をするとは、単純にも、面白いと感じたテーマを探求し、その面白さを他の人に伝えることだということでした。そして、これまでの研究生活において最も後悔していることは、その「勉強」の面白さを駒場で見つけようとしなかったことです。私は前述の先生のおかげで、大学で勉強する素晴らしさを理解できたわけですが、駒場で受け身な学術生活を送らなければ、こんな不器用な研究人生を経ることはなかったように思います。学部生の皆さんには、様々な学術的機会に意欲的に取り組んで、大学における「勉強」の面白さを見つけ出してもらいたいと思っており、そのお手伝いをすることができればと願っています。

(国際社会科学/国際関係)
 

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