HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報592号(2017年5月 2日)

教養学部報

第592号 外部公開

大隅良典先生ノーベル賞受賞記念講演会の報告

新井宗仁・太田邦史

平成二十九年二月二十二日(水)に九〇〇番教室にて、大隅良典先生ノーベル生理学・医学賞受賞記念学術講演会・交流会が開催されました。大隅先生と本学との関係は深く、大隅先生は理科二類に入学後、教養学部基礎科学科(現在は統合自然科学科に改組)に進学、大学院理学系研究科相関理化学専攻(現在は大学院総合文化研究科広域科学専攻に改組)にて博士号を取得されました。また、ロックフェラー大学の博士研究員、本学理学部の助手と講師を勤められた後、一九八八年から本学教養学部の助教授として独立した研究室をスタートされ、一九九六年に転出されるまでの八年間、駒場の大学院生とともに、受賞のテーマであるオートファジーの研究を始められました。受賞理由として引用されている四報の重要論文のうちの二報は、本学教養学部での研究業績です。東大教養学部の教育が半世紀を経て素晴らしいご研究に結実したことは大変喜ばしいことであり、大きな誇りです。
講演会に先立ち、パイプオルガンによる荘厳な演奏のあと、特別栄誉教授称号授与式が行われ、本学の保立和夫理事から大隅先生に特別栄誉教授記が授与されました。

講演会では、ご自身の生い立ちから、オートファジー発見の経緯、現在のご研究に至るまで、大変わかりやすくご説明いただきました。前期課程学生を中心とした約五百名の参加者は、大隅先生のお話に熱心に聞き入っていました。

オートファジーとは、生物が自らのタンパク質を分解して再利用する体内の「リサイクル工場」のような仕組みであり、これが適切に働かないと、アルツハイマー病や糖尿病などになると考えられています。従来の生命科学では「合成」に着目した研究が主流でしたが、大隅先生は助教授になってから研究テーマを変え、誰も注目しなかった「分解」についての独創的な研究を進められました。誰よりも長い時間、顕微鏡で酵母(ヒトとの共通性が多い)を観察しつづけた結果、次々と新たな発見をされました。当初論文があまり出ない期間が十年ほど続いたそうですが、現在では世界中で年間五千報もオートファジー関連の論文が出版されています。

ご講演の最後には、自分の研究を歴史の中で考える/小さな発見を大事にして追い続ける/長期的課題を設定する/流行を追わない/自分の研究の理解者(ファン)を周りにつくる、等々のメッセージをいただき、学生だけでなく教員も大変刺激を受けました。

ご講演後には学生たちから数多くの質問が寄せられ、大隅先生は次のようにお答えされました。海外留学はお勧め/違う考え方の人との出会いは大切/流暢な英語でなくとも、良い仕事内容であれば聞いてくれる/「役に立ちたい」と簡単に言うべきでなく、かなり後に役立つ基礎研究がある/はやりでない所から大きな新分野が生まれる/孤島で一人だけだったらオートファジーの研究をしなかった/「科学」は人間の文化活動であり、「技術」と一緒ではない/文系にも理解してもらい、科学の健全な発展に寄与して欲しい/科学とは何か、有るべき人類社会の姿を考えることが大切/感動した論文のイメージを大切に、など。

講演会のあと、駒場コミュニケーション・プラザ南館二階にて、大隅先生と学部生二百名との交流会が開催されました。学生たちは四十人ずつ五つのグループに分かれ、各グループを大隅先生が十分ずつ訪れました。学生たちは目を輝かせながら積極的に質問をし、大隅先生の一言一言に耳を澄ませていました。

ノーベル賞受賞者と直接お話ができたことは、学生たちにとって大変貴重な経験になったことと思います。お忙しい中、講演会・交流会にお越しいただいた大隅先生に心から感謝申し上げます。

(平成二十八年度学部長補佐/生命環境科学/物理)
(平成二十八年度副学部長/生命環境科学/生物)

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