HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報592号(2017年5月 2日)

教養学部報

第592号 外部公開

<後期課程学部案内>法学部

学部長 岩村正彦

「法学・政治学の世界」~法学・政治学を学ぶことの意味と魅力~
http://www.j.u-tokyo.ac.jp/

一 法学・政治学は、現実社会の事象を、それぞれの方法論によって分析・考察し、新しい理論や解決法を提示する学問です。法学の学修は条文、学説、判例を覚えること、政治学のそれは、学説が提示する分析枠組みとその結論を覚えることと思われがちです。これはある面では真実です。この側面では、法学・政治学は「正解」があります。もっとも、法学・政治学に限らずどの学問分野でも、最先端の研究をするためには、その前提となる基礎の知識(それはときとして大量のものとなります)を身に付け、かつ自在にそれを使いこなすことが必要です。

しかし、既存の学説等を覚えるだけでは、たとえば、IT技術やAIの劇的な発達により発生し、または発生するであろう新しい法的問題や政治問題に対して解決策を提示することはできません。いままで誰もそうした問題を分析・考察したことがないからです。また、法学・政治学は、哲学や他の社会科学(社会学、経済学、統計学等)とも密接に関わっており、相互に影響しあって発展をしていきます。さらに、法学・政治学では過去とのつながりを無視できませんし(法史学・政治外交史学等)、他の国々との比較も重要です(外国法、比較政治学等)。たとえば、比較の視座は、わが国の法制度、法解釈や政治のあり方を相対的に分析することを可能とし、新しい視点を提供します。この意味で、法学・政治学には「正解」はありません。変化の激しい現代社会の課題に対して多角的な視点からチャレンジをするのが法学・政治学であり、法学・政治学を学ぶ面白さはそこにあります。

非論理的・非合理的言説が内外で世論を席捲することがある今日、法学・政治学の論理によって冷静に分析をし、理に適った合理的な解決策を提示する重要性はますます高まっています。そして、法学・政治学の学修によって身につく分析能力・思考能力は、法曹や公務部門だけではなく、民間企業等においても有用です。その点で、法学部を卒業した後の進路は幅広いものです。

さらに、法学部は、卒業生が国際化に直面している多様な分野で主導的立場に立って活躍することが期待されていることから、法学部生が在学中に外国語の能力を身に付け、それを高めること、そして、在学中に留学を経験することを奨励しています。そのために、第一類(法学総合コース)では、外国語科目の履修を必修とし、また留年せずに留学ができるように配慮をしています(今般のカリキュラム改革による卒業単位数と必修科目数の削減はその表れの一つです)。

二 法学部については「法学部砂漠」ということが言われます。これは、法学部の授業が大教室での講義が中心で、かつこれらの講義が無味乾燥で、教員と学生間や学生同士間の人間関係が希薄であることを指すようです。

実際、前期課程二年次の科目および法学部進学後の三年次の多くの科目は大教室で行われます。これは、これらの年次の科目は、憲法、民法、刑法、商法、政治学、国際政治等の法学・政治学の基本的なもので、その後に提供している応用的・先端的な科目の学修のベースとなるものであるためです。大教室での講義が無味乾燥となってしまうかどうかは、学生の皆さんの姿勢次第です。なぜなら、まず、教員は、当該分野の第一人者ですので、講義では、基本的なことのみならず、最先端の研究にも触れられるはずだからです。そうした教員の講義を集中して聞き、理解することは決して無味乾燥ではありません。また、講義を聴いて持った疑問点について自ら考えてその解明を試みたり、教科書や講義のレジュメで紹介された文献や判例を自分で探して読み、より奥深いところへ分け入ることができるからです。さらに、友達同士で勉強会をすることもお奨めです。そこで議論をし、切磋琢磨することで、人間関係を築きつつ、学修を深めることもできます。

他方で、法学部三年次のAセメスター以降は、中教室・小教室での授業がむしろ中心となり、教員との距離も近くなります。教員によっては、講義中に学生に質問をしたり、双方向授業を行っています。こうした講義の醍醐味を味わうことも、法学部の授業の魅力といえます。

また、法学部の特徴の一つは、多くの演習を開講していることです。そして、意欲のある学生が可能な限り多くの演習を履修できるようにセメスター単位の演習を基本としています。演習はまさに少人数の授業であり、多くの場合、あるテーマについて、自分で文献資料等を調べ、演習の席で報告・プレゼンをし、それを元に質疑応答や議論をします。そこでは、一方通行ではない、教員と学生間、そして学生同士での議論が闘わされます。演習によっては、合宿に行ったり、OB/OG会を毎年開いていたりしていて、教室の外での教員と現役の学生達、さらにはOB/OGとの交流の機会もあります。

三 要するに、「法学部砂漠」に埋もれてしまうことなく、法学部で充実した学生生活を送る途は十分に開かれていますし、一で述べたように法学・政治学は時代の最先端を行く魅力的な学問分野なのです。

(法学部長/法曹養成)

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