HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報592号(2017年5月 2日)

教養学部報

第592号 外部公開

理数系辞典案内 2017 数学

山本昌宏(数理)

新入生の皆さんがこれから学ぶ「大学の数学」は、高校までの数学とどう違うのでしょうか?これまであまり強調されなかったかもしれませんが、数学には、個々の知識の集まりだけではなく、さまざまな物事を厳正に考察していく際の基本的な思考様式という側面があり、数学における表現も、日常的な言葉使いと微妙に異なります。このように数学においても、根本的な思考様式を理解するための言葉を正しく理解しなくてはいけないことは、外国語の場合とそれほど異なるものではありません。

そのために必要となる辞典を紹介しましょう。さらに、近年になって益々複雑化・多様化する現実の問題の解決に、数学のもつ高度に抽象的・一般的な知見・思考様式の威力に注目が集まり、数学自体の範囲や使われ方も拡大しています。そのような広範囲な視野のもとに、数学の応用に関するハンドブックのようなものも挙げます。教養課程のうちに数学自体の学習はもちろんのこと、広い興味をもって数学と他分野の関わりにも関心をもっていただきたいと思います。いずれにせよ、筆者の知っている狭い範囲からしか挙げておらず、数多くの優れた辞書、辞典、ハンドブックが漏れてしまったと思いますが、インターネットや図書館でもさらに調べられるはずです。以下では高価な本も紹介しますが、それらは図書室などで利用できるでしょう。

日々の必要に迫られて辞書を引くだけではなく、若いうちに広く事典やハンドブックのようなものにも興味のままに目を通しておくと、のちのち役立ちます。これらの本の内容は4月から始まる講義の学習を助けてくれるものから、プロが研究生活におけるきわどい日々を生き延びるために使えるものまでを含みます。

以下であげる辞書や辞典、事典、ハンドブックは、多くの先人達が実に長い年月の間に蓄積した数学の知識を凝縮した形で記述したものです。数学における知識は厳密な証明を経て確立されもので、未来永劫、変わることのない不変のものです。

A.数学用語の英和・和英辞書
①「数学英和・和英辞典」(小松勇作編、共立出版、1979年、358頁、3,000円)
②「数学用語英和辞典」(蟹江幸博編、近代科学社、2013年、400頁、3,240円)用語自体の説明はないが、講義などで使われている術語は英語でなんというのかなと疑問に感じたときに調べると面白い。例えば数学用語の「行列」は英語のmatrixの日本語訳ですが、matrixに日本語で「大名行列」のような意味の「行列」の意味はありません。また、数学で使われる英単語は日常語と異なる意味で使われることがけっこうあるので、その確認にも便利です。さらに研究論文は英語で書くのが普通なので、論文を書くときも役に立ちます。

B.辞典、事典、ハンドブック
①「岩波数学辞典(第4版)」(日本数学会、岩波書店、2007年、1976頁、15,750円)数学の基礎から応用を含めて、専門的事項や最近の成果までを解説しています。英語版もあり世界的にも定評があります。現行の第4版は第3版の20年ぶりの全面改訂版であり、特に応用分野の項目が増えました。両方の版を比べると最近の数学の変貌に気がつくかもしれません。数学の研究者向けですが、「読む」(あるいは、「読む」努力を払う)ことによって先端の数学の雰囲気に触れてみましょう。
②「現代数学百科」(矢野健太郎訳補、講談社、1968年、579頁、590円)
古本屋などで入手できるかもしれませんが、筆者は40年間ほど使っているので、あえてここに挙げました。原書はドイツ語で大学初年次の程度までをカバーしています。初等的な範囲で公式集、数表も付いています。
③「岩波 数学入門辞典」(青本和彦、上野健爾、加藤和也、神保道夫、砂田利一、高橋陽一郎、深谷賢治、俣野博、室田一雄編、岩波書店、2005年、738頁、6,720円)大学の数学までがわかりやすく解説されています。
④「カラー図解 数学事典」(浪川 幸彦・成木 勇夫・長岡 昇勇・林 芳樹訳、共立出版、2012年、512頁、5,775円)フルカラーの図と解説文をうまく連動させていることが魅力です。原著はドイツのdtv-Atlasという事典のシリーズです。
⑤「現代数理科学事典 第2版」(広中平祐編集委員会代表、丸善、2009年、1,470頁、46,200円)いわゆる応用数学の事典(辞典でなく)で、読むのに適しています。
⑥「応用数学ハンドブック」(藤原毅夫、平尾公彦、久田俊明、広瀬啓吉編、丸善、2005年、784頁、25,000円)偏微分方程式、数値解析などの理工系の大学の4年次までで学習する内容を解説しています。ハンドブックなので読んで学習するのによいでしょう。
⑦「プリンストン数学大全」(砂田利一、石井仁司、平田典子、二木昭人、森真監訳、朝倉書店、2015年、1,192頁、19,440円)錚々たる世界的な数学者たちが執筆した総合事典です。

C.公式集
①「数学公式Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ」(森口繁一、宇田川銈久、一松信著、岩波書店、1956年、各318、340、298頁、各2,205円)微分積分、級数、特殊関数についての公式をカバーしています。入手しやすく、便利です。コンピュータが発達したからといってこのような公式集が不要になることはありません。手元に是非置いておきたいものです。
②「新数学公式集Ⅰ 初等関数」(大槻義彦監修、室谷義昭訳、丸善、1991年、797頁、8,240円)原著のロシア語の3巻本の公式集の一部の日本語訳で積分や級数の公式が7,000余り収められています。原著の3巻本は公式集としては世界最大のものの1つ。

D.番外
①「世界数学者人名事典(増補版)」(千田健吾、山崎昇訳、大竹出版、2004年、726頁、9,720円)、「世界数学者事典」(熊原啓作訳、日本評論社、2015年、692頁、6,500円)ともに古今東西の著名な数学者の略伝です。講義で名前が出てくる数学者自身について知りたいときに便利。また無味乾燥とみえるかもしれない数学を創造した数学者の人生行路にも触れることができます。
②「Handbook of Exact Solutions for Ordinary Differential Equations」,(A.D. Polyanin, V.F. Zaitsev著、Chapman & Hall/CRC, 2003年,816頁,33,810円)6,200余りの種類の常微分方程式の厳密解を列挙しています。このようなハンドブックは他にも色々あり、図書館などで眺めていると色々と面白いでしょう。

※辞書の価格について、特に注意書きのないものは税抜きとなります。

(数理)

第592号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報