HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報598号(2018年2月 1日)

教養学部報

第598号 外部公開

<送る言葉>筋肉と外国と仏教とリサイクル:常人には分からない、深遠なる共通性を結びつける人間性

道上達男

廊下の向こうから「にやっ」と笑いながら近づいてきて話しかけてくれるのが、私にとっての松田さんとの日常。始めに……本来は松田先生と呼ぶべきなのだが、ご本人が「先生」と呼ばれるのを極度に嫌うので、ここでも敢えてそう呼ぶことにする。松田さんは学位を取得される前後で、UCバークレーに留学され、都立大助手、W・アルトン ジョーンズ細胞科学センター主任研究員等を経て、一九九一年本専攻に着任された。それ以来二七年間にわたり、東大で研究・教育活動に従事されてきた。

さて、松田さんを表すキーワードであるが、「筋肉」「外国」「仏教」「リサイクル」というのはそれほど間違いじゃないだろう。まずは「筋肉」について。これは研究のキーワード。松田さんは、筋発生、特に筋衛星細胞とよばれる筋肉の幹細胞が活性化し筋芽細胞に分化する仕組みを研究するとともに、筋肉の疾患として広く知られる筋ジストロフィーについて、ナンセンス変異のリードスルーなどを始めとする治療法の研究を行い、多くの業績を挙げてこられた。研究室にも多くの優秀な学生が入り、優秀な人材を輩出してきた。また松田さんは、海外連携に立脚した教育活動を非常に積極的にされてこられた。これが二番目の「外国」。例えば国際環境学コースでは、立ち上げのころから広報など運営活動にご尽力された。また、全学ゼミでPEAK生と四月生を積極的に混ぜることで、未だ多いとはいえない前期課程講義での国際交流を実現している。また、国際生物学オリンピックにも関わっておられ、日本委員会の運営委員のみならず、現在は国際法人の理事も務められている。このように、松田さんが行っている教育活動のグローバル性は特筆すべきものだろう。松田さんにはもう一つの顔がある。それは曹洞宗の僧侶。これが三つ目のキーワード。二十四歳の頃に半年の修行を積まれ、今でもご実家の手伝いをされていると聞く。そして四つ目、リサイクルとは何か。年二回の環境整備では、集積場所には必ず出没し、お目当ての(?)ゴ……いや、物品を探す。それはまた、人間のみならず物のいのちも大切にせねばならないという仏教の教えにも通じるのかもしれない。

以上のキーワードは一見つながりがないようにも思えるが、もしかするとご本人の中では共通性があるのかもしれない。敢えて考えるとそれらを結びつけるのは、全てを平等かつ客観的に、偏見無く人間や物を見るということかもしれない。確かにそれは、研究者としてもグローバルな人間としても宗教家としてもリサイクルマン(?)としても恐らく大切なことだろう。そしてなにより大事なことだが、松田さんのフランクで人間味あふれるキャラクターは、学生からも教員からも愛されている。そんな訳で、にやっと笑いながら近寄ってくる松田さんに、忙しくても足を止めてついつい話をしてしまうのである。おそらく退職後も様々な研究教育活動で国内外を飛び回るものと推察する。今後ますますご活躍されることを後輩として陰ながら応援しております。

(生命環境科学/生物)

第598号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報