HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報599号(2018年4月 2日)

教養学部報

第599号 外部公開

東京大学2018年度 新入生のみなさんへ

総長 五神 真

599_01-1.jpg新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。東京大学の教職員を代表して、心よりお祝いを申し上げます。

皆さんが入学された東京大学は昨年、創立一四〇周年を迎えました。最初の七十年は、新たな文明へと大きく舵を切った明治の黎明期にはじまり、第二の七十年は、戦後の国家と社会の体制が根本から転換したところを起点としています。そして、いま東京大学は第三の七十年の始まりを迎えています。皆さんはその最初の年に東京大学の一員になられたのです。

現在は「変化の時代」と言われます。変化のスピードが加速し、人類が数世紀をかけて創り上げてきた、社会の基本的な仕組みや思想が大きく転換しています。しかしながら私たちは「変化の時代」を、今はじめて経験するわけではありません。今年は明治維新一五〇周年でもあります。長い鎖国を経て、世界と一気に繋がる中で、近代国家をどのように立ちあげたのか、その歴史には学ぶべきものが多いでしょう。「歴史に学ぶ」とは単に過去の事象を確認することではありません。その意味を未来に向けて問い直し、新たな価値を探求することなのです。
東京大学には、時代の変化に怯む事なく挑み、その変化を楽しみ、新たな価値を生みだした人たちが数多くいます。その一人が岡倉覚三(天心)です。東京大学創立の年に、文学部の第一科に入学し、後に日本美術史という新しい学問を切り開き、日本文化を世界に伝えた人物です。その背景には、お雇い外国人として招かれていた、若い教師アーネスト・フェノロサとの出会いがありました。

明治初期は、世界に通用する国の形を整えるために、西洋文明をいち早く取り入れたいという機運が高まる反面で、多くの仏像が打ち捨てられ破壊される「廃仏毀釈」の運動が起こっていました。政治学や哲学の教師であったフェノロサは、米国で美術を学んでいたこともあり、日本の美に惹かれ、作品の収集や研究に邁進します。教え子の岡倉は卒業後、文部省の官吏となり、フェノロサの京都や奈良への調査旅行にたびたび同行しました。この二人の活動では、法隆寺夢殿の秘仏、救世観音像の開扉のエピソードが有名です。岡倉はフェノロサを通じて、外部から日本を見るという目を養い、日本の伝統美術を発見したのではないでしょうか。信仰の対象でしかなかった仏像を「美」の視座から評価し、その価値を議論し記録し共有することで、日本美術史という新しい学問を生みだしたのです。明治という変化の時代に生まれた、若い教師と新進の学生との、発見の楽しみに満ちたみずみずしい交流の現場を思い浮かべて見て下さい。皆さんにもぜひ、変化に挑戦する姿勢とともに、楽しむという視点を持ってほしいと思います。

さて「変化を楽しむ」姿勢は、これからはじまる大学での勉強や生活の中でもきっと役立つでしょう。今までは決められた課題が与えられ、それを着実かつ迅速にこなしていくことが求められてきたかもしれません。しかし、これからは違います。自分で問いを見つけ、自分で時間の使い方や対応策を考え、自分から行動することが必要になります。このような新しい学びに切り替える「ギア・チェンジ」の仕組みを、東京大学はいろいろと用意しています。

まず「初年次ゼミナール」に積極的に参加して下さい。最先端で活躍している先生方が駒場で一年生のために開講する少人数授業ですから、本物の研究者の感覚に触れ、研究の多様さと面白さを感じて下さい。
数日から一ヶ月くらいの期間で国内や海外でボランティア活動、就労体験、地域活動に参加する「体験活動プログラム」、昨年度から始まった全国の地方自治体と協働で地域の課題を考える「フィールドスタディ型政策協働プログラム」などは、刺激に満ちた気づきの機会となるでしょう。

留学生ともぜひ積極的に交流して下さい。グローバル化の流れが止まらない中、日本文化を世界の中で相対化し、その上で、日本ならではの視点をどう活かしていくかを考えてほしいのです。

今年四月から「国際総合力認定制度」を始めます。世界の多様な人々とともに生き、ともに働く力を鍛えるための仕組みです。国際力をつけるためのさまざまなプログラムを体系的に整理して、皆さんが達成度を実感しながら自らレベルアップできるようにし、一定のレベルを超えたら認定証を出します。社会に出るときの自己アピールにも活かせるでしょう。皆さんは認定制度の第一期生ですから、大いに活用して下さい。
大学生時代とは、個々人の時間が大事なものとして尊重され、豊かに保証されている、人生の中でも希有の時代です。大学ほど自由でオープンに議論できる場は、他にはなかなかありません。東京大学は多様な教職員と優秀な学生たちが集う「知の密度」が高い場所です。そこで学べる幸せを大切に、悔いのない時間を過ごして下さい。

充実した大学生活を送るためには、心身の健康が大切です。心配なことがあれば、大学の教職員や仲間に相談しましょう。皆さんが素晴らしい仲間と出会い、楽しくねばり強く学び、立派な卒業生となる、その日を楽しみにしつつ、健闘をお祈りします。

(東京大学総長)

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