HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報599号(2018年4月 2日)

教養学部報

第599号 外部公開

<時に沿って>駒場での統計学との出会い

丸山祐造

二〇一七年十月十六日付けで大学院総合文化研究科国際社会科学専攻の教授に着任しました丸山祐造と申します。

学内で二〇一七年二月に設置された数理・情報教育研究センターの一員でもあります。約四半世紀ぶりの駒場でして、垢抜けているとは言い難い学生さんを見かけるたびに、昔の自分を重ねています。

一九九〇年四月に姫路から上京し、東京大学教養学部理科二類に入学しました。お世辞にも勉強したとは言えない前期課程を過ごしました。数学ではイプシロン・デルタ論法が理解できず、落ちこぼれてしまいました。後に自分の専門になる統計学は、当時のカリキュラムでは選択科目として「社会科学」の枠にありました。現在と同様に高校「数学」で確率・統計を学んでいたわけですが、当時の私はこの分野の横断に違和感を覚えて履修しませんでした。今では、分野横断こそが統計の本質であり面白さだと分かるのですが。

進学振り分けでは、教養学部教養学科第一人文地理学分科に進学しました。現在の教養学部学際科学科地理・空間コースです。高校でも前期課程でも地理を履修しなかったのに思い切った選択でした。理由を尋ねられても返答に窮します。進学してからも勉強しているとは言い難かったのですが、三年夏学期に荒井良雄先生の「地域分析」を履修したことが、大げさに言えば私の人生を変えました。

ある回の課題は、「興味のある分野のデータで重回帰分析を行い、解釈をつけなさい」というものでした。国勢調査のデータを表計算ソフトに入力して、回帰分析を様々な変数について試しているとき、不思議な現象に出会いました。説明変数としてどんな変数を加えても決定係数が増加するのです。「決定係数って回帰式の当てはまりの良さだよね。どんな変数でも良いの?」というわけです。線形代数としては当たり前で、「説明変数を追加すると、説明変数ベクトルたちが張る線形部分空間が大きくなって、『目的変数ベクトルのその空間への正射影』と『目的変数ベクトル』がより近くなる」、というだけのことです。一方で、重回帰分析では目的変数を「本当に説明する」変数の組を探索したいのです。この現象は、複数の組を比較する指標として決定係数が有用ではないことを示しています。実は、推測統計的な視点で重回帰分析を扱うことの必要性・重要性とも関係します。

とにかく決定係数に関する上記の現象を理解したいと思い、真剣に統計学、数学を勉強するようになりました。さらに、専門的に統計学を学ぶべく大学院経済学研究科に進学することになり、一九九四年三月に駒場を離れました。そして、このたび駒場に戻ってきました。今年度から担当する基礎統計の講義では、学生の皆さんに統計の面白さをアピールしたいと思います。なお数理・情報教育研究センターは、統計・数理データサイエンス教育の充実を目指しています。駒場の皆様、どうぞよろしくお願いします。

(国際社会科学/経済・統計)

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