HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報599号(2018年4月 2日)

教養学部報

第599号 外部公開

<時に沿って>踊る研究者

三浦哲都

二〇一七年九月より大学院総合文化研究科の助教に着任しました三浦哲都(あきと)と申します。哲郎(てつろう)と読み間違えられることが十回に七回はありますが、哲都(あきと)と覚えていただけますと幸いです。青森県相馬村(現在は弘前市)の出身で、二〇〇七年に早稲田大学スポーツ科学部を卒業後、東京大学大学院総合文化研究科に入学しました。二〇一二年に博士の学位を取得後、名古屋大学で学振PD、モンペリエ第一大学(仏)客員研究員、早稲田大学スポーツ科学学術院助教を経て、現在に至ります。専門は神経科学、スポーツ心理学です。

私は大学院の頃から一貫してストリートダンサーの研究を行ってきました。駒場キャンパスには生協のガラスに自分の姿を映し、音楽をかけて踊っている学生がたくさんいますが、彼らが踊っているダンスがストリートダンスです。私自身十六歳から大学院卒業までストリートダンスをしており、競技会等へ参加していました。ストリートダンスは、百拍/分前後のビートの強い音楽に合わせて踊るダンススタイルです。頭を地面について回転する大技が注目されがちですが、音楽と動きの一体感など、両者の関係性が最も重要視されます。熟練ストリートダンサーは、あたかも身体が音楽を奏でているかのように踊り、観客を魅了します。

自分がストリートダンサーだったという理由で始めたストリートダンスの研究でしたが、ストリートダンスは人間のさまざまな側面と関わる非常に興味深い研究対象であることがわかってきました。例えば、ストリートダンスの基本となるリズム運動の研究から、リズム運動とビート音が無意識にある特定の協調パターンを作ってしまうことがわかりました。ビート音にあわせて膝を伸ばす「アップのリズム運動」を素早く行うと、ビート音に合わせて膝を曲げる「ダウンのリズム運動」に、無意識に引き込まれてしまいます。私たちが音楽に合わせて「自由に」踊っているとき、実は音楽に運動が規定されてしまっているのです。

このように、身体運動は私たちが気づかないうちに、環境の情報に規定されて(引き込まれて)しまう特徴があります。誰かと並んで歩いているとき、相手と足並みが揃ってしまうのもその一例です。このような引き込み現象は、スポーツやダンス、音楽演奏など特定の運動を遂行する際に邪魔になってしまうことがあります。私たちの研究から、熟練者はこのような引き込みから自由になっているということがわかってきました。

私は前期課程の体育の授業を担当していますが、授業ではこの「引き込み」を克服するために、ストリートダンスの動きを応用したリズムトレーニング、コーディネーショントレーニングなどを行っています。「引き込み」から自由になり、巧みな運動ができる(踊ることができる)東大生を増やすことが、私の目標です。

(生命環境科学/スポーツ・身体運動)

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