HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報600号(2018年5月 8日)

教養学部報

第600号 外部公開

理数系辞典案内 2018 数学

山本昌宏

新入生の皆さんがこれから学ぶ「大学の数学」は、内容だけを見ると、ともすると高校までの数学の延長のように感じられるかもしれません。そもそも数学は古代から人類の叡智の中心であり続けており、ヘレニズム期のユークリッドにいたって、定義−公理─定理−証明という数学の記述・展開の規範が確立し、ニュートンやライプニッツなどによる微分積分学を経て、18 世紀以来多様性を増して現在に至っています。大学において数学を学ぶことにより、今まで以上にそのような歴史的な経緯にも気がつくはずです、現代数学は、かつてなかったほど多様化しており、意外な面で実社会のために役立っています。数学には、個々の知識の集まりだけではなく、さまざまな物事を厳正に考察していく際の基本的な枠組みを与えるという重要な機能があります。そのために数学における表現も、日常的な意味と異なるものがあります。数学をする際の言葉使いや術語を正確に理解し使っていくことは、モノゴトを厳密かつ客観的に考察していくために必要な数学の機能を果たす上に是非必要なものです。外国語の学習ほどではないですが、辞典的なものが重要ですが、異なる点は、それぞれの単語の説明が、その分野の説明にならざるえないことです。以下のB.にはそのような辞典、事典の紹介をしますが、程度の違いはありますが、言葉自体の理解と数学の関連知識の理解が一体となってしまっており、辞書を引いて日本語訳を見つけてすぐ理解できるようなわけにはいきません(これは他の理系科目の辞典、事典でも同じです)。そこで下記の辞書や事典をひくことによって、専門用語の意味だけでなく、それが代表する数学の分野についてもアプローチをしてください。完全に理解できないとしても、古代以来の人類の叡智であり多様化が著しい数学の一端に触れることができるはずです。いろいろとアプローチの努力をすることにより、「数学」が近い存在になります。辞典、事典は、多くの先人達が実に長い年月の間に蓄積した数学の知識を凝縮した形で記述したものであり、そのような知識は厳密な証明を経て確立されたもので、未来永劫、変わることのない不変のものです。

複雑化・多様化する現実の問題の解決に、数学のもつ高度に抽象的・一般的な知見・思考様式の威力に注目が集まり、数学自体の範囲や使われ方も拡大しています。そのような広範囲な視野のために、数学の応用に関するハンドブックのようなものもB.の中に挙げました。教養課程のうちに数学自体の学習はもちろんのこと、広い興味をもって数学と他分野の関わりにも関心をもっていただきたいと思います。いずれにせよ、筆者の知っている狭い範囲からしか挙げておらず、数多くの優れた辞書、辞典、ハンドブックが漏れてしまったと思いますが、インターネットや図書館でもさらに調べられるはずですし、高価な本は図書館などで手に取ることができるでしょう。日々の必要に迫られて辞書を引くだけではなく、若いうちに広く事典やハンドブックのようなものにも興味のままに目を通しておくと、のちのち役立ちます。

A.数学用語の英和・和英辞書
①「数学英和・和英辞典」(小松勇作編、共立出版、1979年、358頁、3,000円)
②「数学用語英和辞典」(蟹江幸博編、近代科学社、2013年、400頁、3,240円)用語自体の説明はないが、講義などで使われている術語は英語でなんというのかなと疑問に感じたときに調べると面白いと思う。例えば数学用語の「行列」は英語のmatrixの日本語訳ですが、matrixに日本語で「行列ができる」という意味の「行列」の意味はありません。また、unique, regular, normal とか、数学で使われる英単語は日常語と異なる意味で使われることが多いので、その確認にも便利です。さらに研究論文は英語で書くのが普通なので、論文を書くときも役に立ちます。

B.辞典、事典、ハンドブック
①「岩波数学辞典(第4版)」(日本数学会、岩波書店、2007 年、1976頁、15,750円)数学の基礎から応用を含めて、専門的事項や最近の成果までを解説しています。英語版もあり世界的にも定評があります。現行の第4版は第3版の20年ぶりの全面改訂版であり、特に応用分野の項目が増えました。両方の版を比べると最近の数学の変貌に気がつくかもしれません。数学の研究者向けですが、「読む」(あるいは、「読む」努力を払う)ことによって先端の数学の雰囲気に触れてみましょう。
②「現代数学百科」(矢野健太郎訳補、講談社、1968年、579頁、590円)
古本屋や図書室などでみつけることができるかもしれません。原書はドイツ語で大学初年次の程度までをカバーしています。初等的な範囲で公式集、数表も付いています。
③「岩波 数学入門辞典」(青本和彦、上野健爾、加藤和也、神保道夫、砂田利一、高橋陽一郎、深谷賢治、俣野博、室田一雄編、岩波書店、2005年、738頁、6,720円)大学の数学までがわかりやすく解説されています。
④「カラー図解 数学事典」(浪川 幸彦・成木 勇夫・長岡 昇勇・林 芳樹訳、共立出版、2012年、512頁、5,775円)フルカラーの図と解説文をうまく連動させていることが魅力です。原著はドイツのdtv-Atlasという事典のシリーズです。
⑤「現代数理科学事典 第2版」(広中平祐編集委員会代表、丸善、2009年、1,470頁、46,200円)いわゆる応用数学の事典(辞典でなく)で、読むのに適しています。
⑥「応用数学ハンドブック」(藤原毅夫、平尾公彦、久田俊明、広瀬啓吉編、丸善、2005年、784頁、25,000円)偏微分方程式、数値解析などの理工系の大学の4年次までで学習する内容を解説しています。ハンドブックなので読んで学習するのによいでしょう。
⑦「プリンストン数学大全」(砂田利一、石井仁司、平田典子、二木昭人、森真監訳、朝倉書店、2015年、1,192頁、19,440円)錚々たる世界的な数学者たちが執筆した総合事典です。

C.公式集
①「数学公式Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ」(森口繁一、宇田川銈久、一松信著、岩波書店、1956年、各318、340、298頁、各2,205円)微分積分、級数、特殊関数についての公式をカバーしています。入手しやすく、便利です。コンピュータが発達したからといってこのような公式集が不要になることはありません。手元に是非置いておきたいものです。
②「新数学公式集Ⅰ 初等関数」(大槻義彦監修、室谷義昭訳、丸善、1991年、797頁、8,240円)原著のロシア語の3巻本の公式集の一部の日本語訳で積分や級数の公式が7,000余り収められています。原著の3巻本は公式集としては世界最大のものの1つ。

D.番外
①「世界数学者人名事典(増補版)」(千田健吾、山崎昇訳、大竹出版、2004年、726頁、9,720円)、「世界数学者事典」(熊原啓作訳、日本評論社、2015年、692頁、6,500円)ともに古今東西の著名な数学者の略伝です。講義で名前が出てくる数学者自身について知りたいときに便利。また無味乾燥とみえるかもしれない数学を創造した数学者の人生行路にも触れることができます。
②「数学定数事典」(一松信 監訳、朝倉書店、2010年、608頁、17,280円)円周率はもとより数学で現れる重要な定数を960ほど紹介している事典です。数学は抽象的なものを対象とするものの、重要な定数が数多くあります。
③ 「Handbook of Exact Solutions for Ordinary Differential Equations」, (A.D. Polyanin, V.F. Zaitsev 著、Chapman & Hall/CRC, 2003年, 816頁, 33,810円)6,200余りの種類の常微分方程式の厳密解を列挙しています。このようなハンドブックは他にも色々あり、図書館などで眺めていると色々と面白いでしょう。

※辞書の価格について、特に注意書きのないものは税抜きとなります。

(数理)

 

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