HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報600号(2018年5月 8日)

教養学部報

第600号 外部公開

<600号記念特集>教養学部報600号に寄せて

増田 茂

この度、教養学部報(以下、学部報)は六〇〇号になったとのこと、一愛読者としてまたかつて学部報の企画・編集に携わった者として、お慶び申し上げます。
私と学部報との出会いは、私が化学教室(現、化学部会)の助手として赴任した一九八四年のことである。赴任直後の四月、新入生オリエンテーションのために山中湖で合宿中の教養学部二年生五名が死亡するという痛ましい大事故が起こった。当時新参者の私にとって学部報は貴重な情報源であった。いま縮刷版で読み返すと、二九五号(一九八四年五月)、青柳晃一先生「山中湖水難事故に思う─身のまわりの陥穽、未熟・無秩序・無責任、外からみた東大生、党派主義が招くもの」や二九六号(一九八四年六月)、緊急座談会「山中湖水難事故によせて」の記事から、当時の駒場の張り詰めた空気がヒシヒシと蘇ってくる。

以来、学部報は私にとってもっぱら読む対象であった。二〇〇〇年代から学部報委員として記事の内容や構成を編集会議で検討するとともに、原稿を依頼したり、心ならずも催促することになった。二〇〇七年には、五〇〇号記念特集を発行した。この特集では「教養学部報の半世紀 一九五一〜二〇〇七」と銘打って、百号毎に印象的な記事を再掲した。編集過程で学部報創刊号から通読することになったが、数千にも及ぶ記事には駒場文明(文明という言葉を定義することもなく使うなと歴史学の先生に叱られそうだが)とも言える独自世界が刻まれていた。例えば、以下のような記事。

開闢期では、五号(一九五一年九月)「女子学生の実態─報告と要望」。何とも怪しげなタイトルではあるが、内容はいたって実直。「終戦後学制の改革に伴い、東京大学においても、広く女子に門戸が解放され、年々女子学生の姿が見られるようになつた。二十四年七月駒場に新制度による教養学部が設置され、千八百名の男子学生の中に九名の女子学生が入学した」とある。さらに、「学業成績は一般に男子学生に比しおうむね(原文まま)よいようである」「基礎体力の低下が目立つ」などの記述も。

激動期では、一七〇号(一九七〇年六月)蓮実重彥先生「ありうべからざる映画をめぐって」。この記事は冒頭から、「一つの抽象的な点にすぎないスクリーンに向かって、上映時間零秒の作品を投影してみたい。そして空間上にその拡がりをいささかも主張せず、……」と難解な文章が続く。ちなみに二三八号(一九七八年一月)では、一つの段落(千字ほど)に句点「。」が一つという文章構成の書評が登場する。

再編期では、四二六号(一九九九年一月)菊地文雄先生「数学は役に立つか?」。この記事は、「役に立つ(おもしろい)と思う人には役に立つ(おもしろい)」と禅問答のような帰結から始まり、日本と欧米などにおける釣り銭の数え方の違いや日航一二三便・もんじゅ・スペースシャトルの事故と変形体の力学との関係にも話が及ぶ。
駒場文明の存立基盤は「教養」なので、これについての記事も膨大である。一号(一九五一年四月)、矢内原忠雄初代学部長「創刊の辞」に始まり、五二三号(二〇〇九年十月)、駒場還暦座談会「二十一世紀の教養のあり方」では、さまざまな視座に立った発言が掲載されている。

この度、学部報は六〇〇号になった。B四判タブロイド・縦書き・白黒写真という創刊以来のスタイルは健在だ。A四判・横書き・カラー写真の各種学内広報、電子媒体全盛に時代にあっても、学部報は「教職員と学生とのコミュニケーションの促進」に機能し続けるだろう。定番の「時に沿って」「駒場をあとに」「○○先生を送る」「本の棚」「書評」「ノーベル賞の解説」などに加えて、学部報委員会による新企画も楽しみである。

最後に、学部報について私の願望を挙げておこう。

第一に、インターネットの活用についてである。学部報のホームページには、最新号から四二三号(一九九八年十月)までの記事が掲載されているものの、それ以前の号では目次のみとなっている。記事内容の掲載を是非ともお願いしたい。学部報には縮刷版があるが、部数が非常に限られている。
第二に、検索機能についてである。現行のホームページでは、人名索引が可能である。これに加えてキーワードによる検索が可能になれば、過去の記事を手軽に閲覧・引用することができるだろう。そうすれば、学生たちとのコミュニケーションの促進により一層役立つのは間違いない。例えば、〈学び方〉新シリーズ。筆者の分野で探せば、四八八号(二〇〇五年十二月)、村田滋先生「化学の学び方 大学の化学に戸惑いを感じる皆さんへ」や五〇八号(二〇〇八年一月)、真船文隆先生「化学の学び方 根底にある法則の理解と化学物質に対する勘」。もちろん他分野においても多数、掲載されている。この種の記事は、現在のみならず未来の東大生にも是非読んでもらいたいものである。

(相関基礎科学/化学)

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