HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報607号(2019年2月 1日)

教養学部報

第607号 外部公開

体験型の数理ワークショップ 〜あなたも数学者!〜

佐々田槙子

二〇一八年八月二十七日の日本経済新聞で、Women & Work「数学でひらくキャリア」という記事が掲載されました。その中で、二〇一六年より数理科学研究科の支援で開催してきました「母娘で体験する数理ワークショップ」を取り上げていただきましたので、このワークショップについて、また関連するwebサイト「数理女子」について、この場を借りて紹介をさせていただきます。
「母娘で体験する数理ワークショップ」は、小学四年生以上中学三年生以下の女子生徒とそのお母さんの親子を対象に、二〇一六年の夏から年に二回のペースで行っています。十時前後に開始して午後五時頃まで丸一日かけて、一つのテーマについて様々な体験型の活動を行います。これまで取り上げたテーマは、「"デザイン"の中に隠れた数学〈数学を発見しよう・数学で創ろう!〉」、「サイコロやゲームの中に隠れた算数・数学 〜確率であそぼう〜」、「算数・数学で秘密を創ろう、解きあかそう」の三つです。毎回二十四組の親子を募集していますが、ありがたいことに倍以上の応募をいただくことも多く、同じテーマで夏と冬の二回開催を行うようにしています。
ワークショップでは一貫して「あなたも数学者!」というサブタイトルをつけています。数学や数学者に対しては、浮世離れしている、とか、すごく難しいことをしている、というイメージを持たれがちですが、数学者がアイディアを思いつく瞬間というのは、美しいタイルの模様から共通性を見つけたり、ゲームに勝つ方法を閃いたり、という瞬間と全く同じです。新しい視点をみつけたり、試行を重ねて自分なりの予想を立てたり、そういった瞬間の喜びを経験してもらうことを最も大切にしています。
また、開催形式で特にこだわっているのは、お母さんとお子さんが別々の部屋で、全く同じ活動をすることです。親は見ているだけだと思っていた、と最初は戸惑うお母さんが多いのですが、いざワークショップが始まると、子供達と同じように生き生きとした表情で熱心に取り組んでくださり、「数学がこんなに面白いって、もっと早く知りたかった」という声を多くいただいています。同じ課題に娘たちはどんな風に取り組んだのか、お母さんたちとどっちがより面白い発見ができたか、とそれぞれにお互いの活動に興味津々で、昼休みやワークショップ終了後の家庭での会話にも繋がっています。それによって、テーマについての体験が、ワークショップの場のみで終了することなく、それぞれの異なる経験を合わせてもう一度新しい角度から見つめ直す機会となっています。
さて、なぜ「母と娘」なのかというと、このワークショップは「数理女子」という活動の一環として行っているためです。日本では、数学やその関連分野を専攻する女性が非常に少なく、もっと多くの女性にその魅力を知ってもらいたいと思い、「数理女子」というホームページ(URL:http://www.suri-joshi.jp/)を慶應義塾大学の坂内健一先生と立ち上げ、運営しています。数学そのものの面白さを紹介することはもちろんですが、同時に、数学に対する様々な間違ったイメージを変えたいと思い、数学が他分野でどのように生かされているか、数学科を出た人がどういった就職をしているか、数学科の学生や数学者の生活はどのようなものか、といった記事を定期的に更新して紹介しています。男女問わず、ぜひ多くの方にご覧いただけましたら幸いです。サイトの立ち上げにあたっては、数理科学研究科に多大なご支援をいただきました。
ワークショップ参加者からは「数の出てこない数学もあるんだ。面白い。」「私、数学好きかも?!」「難しいけどキレイで楽しい!」など毎回期待以上の反応をいただいています。自分が面白いと感じるものを、一緒に面白がってくれる仲間が増えることは、この上なく嬉しいことだと感じます。これからも、数学の楽しさや魅力を発信し続けていきたいと思っています。

(数理科学研究科)

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