HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報607号(2019年2月 1日)

教養学部報

第607号 外部公開

<時に沿って>自分のペースで歩み続ける

柏原崇人

二〇一四年三月に本学大学院数理科学研究科の博士課程を修了後、ドイツのダルムシュタット工科大学、岡山大学、東京工業大学でのポスドクを経て、二年前に数理科学研究科の特任助教として母校に帰ってまいりました。今年の十月からは同研究科の助教を務めております。学部時代も含めれば、本当に長いこと駒場に通っているのだなと改めて認識しているところです。初めて駒場キャンパスを訪れたのは入学前の諸手続きのときで、新入生の行列とサークル勧誘の人ですごいお祭り騒ぎだった記憶がありますが、その後十年以上もお世話になるとは、当時はもちろん想像もしていませんでした。
高校時代から数学に興味を持っていましたが、大学に入学してから、研究者として数学の最前線に挑戦するという道があることを知り、「何だか格好いいな、自分にもできるならチャレンジしてみたい」という漠然とした理由で数学者を目指すことにしました。特に悩むことなく数学科そして大学院に進学したのですが、今から振り返るとこれはずいぶん軽く決めてしまったなと思います。専門分野選択の際はさすがに色々悩んだのち、偏微分方程式の数値解析に決めました。自分は数学の何に関心があるのだろうかということを自問自答した結果、様々な自然現象をモデル化する偏微分方程式の性質を、数学理論と現実の問題での利用という二つの観点で明らかにすることに最も興味があると思ったからです。現在、私は流体の運動の支配方程式であるナビエ・ストークス方程式の境界値問題に対する数値解法を研究していますが、結果的に当時の目論見がそのままあてはまっており、あのときの選択は間違いなく正しかったと感じています。
一研究者としての道がおぼろげながら見えてきたところで、今後は、これまで支えてくれた方々の恩に報いるような働きを見せたいと意気込んでおります。しかし、私のような人間は油断するとすぐに怠け癖が出てしまうので(昔習っていた剣道の先生から教わった「人間は放っておくと楽な方へ楽な方へと流されてしまう」という言葉を思い出すようにしているのですが、それでも止まりません)、そうならないよう自分を律さねばならないと自戒の気持ちを抱いてもいます。まずは、当然ではありますが、目の前の仕事一つ一つに真剣に取り組みます。その上で、研究方面に関しては、「歩き続ければいつか必ず着く、しかし歩みを止めればそれは叶わない」ということを信条として、たとえ匍匐前進するような遅いペースになったとしても、難問への挑戦を諦めないことを心がけたいです。やれば何かしらできるはずだと物事を楽観的に捉えられることは取り柄の一つであると思いますが、それが最終的に大きな成果に結実すると信じて、努力を続けていく所存です。

(数理科学研究科)

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