HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報611号(2019年7月 1日)

教養学部報

第611号 外部公開

<時に沿って> 懐深い駒場で、異質なものとぶつかる日々を!

原田一貴

今年度四月より、大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系に助教として着任いたしました。教養学部では、後期課程の統合自然科学科統合生命科学コースに所属しているほか、二年生の基礎生命科学実験でご一緒する機会があるかと思います。
今でこそ生命科学の研究と教育をしている私ですが、実はもともと文系でした。小学校時代から生物は大好きでしたが、数学や物理が苦手だったため、理系向きではないだろうと思い、東京大学の文科一類に入学しました。ところが最初の学期で法律に挫折し、一番楽しかったのは文系学生向けの「現代生命科学」という授業でした。色々な先生方に相談し、ついには理転の決断をするに至りましたが、当時理学部や農学部に進むのは要求科目が多く困難で、候補に挙がったのが、要求科目のない教養学部後期課程の生命・認知科学科基礎生命科学分科(現統合自然科学科統合生命科学コース)でした。しかし、ここも文系学生が入れる全科類枠は一人しかなかったため(現在は四人)、「進学選択で誰にも負けない点数を取らねばならぬ!」と、受験時代以上に猛勉強する羽目になりました。そしてふたを開けてみれば、なんと志望者は私だけ、平均点がどんなに悪くても進めていたという笑い話でした。
しかし、ここまでの苦労を無駄にするわけにもいかないので、その後も生命科学の勉学と研究にどっぷりと入り浸り、駒場の大学院に進み、現代生命科学の授業で知り合った坪井貴司先生の研究室で博士号を取得し現在に至ります。研究の専門は動物のホルモン分泌機構の解明で、ノーベル賞にもなった蛍光タンパク質を活用しながら、ホルモン分泌の様子を顕微鏡で観察しています。
相当特殊なキャリアを歩んできましたが、それが可能だったのは、制度的なハードルはあれども、様々な学問との出会いの場を用意してくれた駒場の懐深さのおかげでした。文一時代の勉強(中国語、政治学、はてはマレー語......)も、今の研究との直接のつながりはほぼ皆無ですが、そこで出会った先生方や学生たちは軒並み刺激的で、今でも個人的な関係が続いている人もいます。社会に出たり大学院に進んだりすると、利害の絡みなく付き合える多彩な仲間というものはなかなか作れません。色々なバックグラウンドを持つ人たちがごちゃ混ぜになる駒場では、クラス、授業、サークルなどで予想もしなかった異質なものとの出会いがあり、皆さんの視野を押し広げてくれることでしょう。
尊敬するロックバンド、B'zの稲葉浩志さんの言葉をお借りします。確固たる夢がすでにある人もいれば、何も定まっていない人もいると思いますが、進学選択、就活、院進学など、どこかで決断をしなければいけなくなります。そのときに悔いのない選択ができるよう、勉強に限らずどんなことでも、回り道してもよいので首を突っ込んで、駒場での貴重な時間を過ごしてください。どうぞよろしくお願いいたします。

(生命環境科学/生物)

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