HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報611号(2019年7月 1日)

教養学部報

第611号 外部公開

<時に沿って> 五年振りの日本

加藤英明

image611_kato.jpg今年度の四月一日より総合文化研究科先進科学研究機構(広域科学専攻生命環境科学系)の准教授に着任致しました加藤英明と申します。専門分野はタンパク質の構造生命科学になります。内定を頂いた当時は自分の低い記憶力と相まって所属が中々覚えられず困っていたのですが、最近ようやく耳に馴染んできました。
さて、私は既に総合文化研究科の一員ではあるのですが、実は以前の勤務先であった米国Stanford大学における共同研究や仕事の引き継ぎ等が終わっておらず、この「時に沿って」を執筆している現在、出張という形で未だStanford大学に滞在しております。従って、他の先生のように駒場の新生活を克明に描写するというのは今の私には少々難しいというのが本音なのですが、それでも今までのアメリカ生活、そしてこれからの駒場生活について想うところがあるため、徒然なるままに紹介したいと思います。
研究科長より辞令を頂くためアメリカから帰国した四月一日、駒場東大前駅に降り立ち、正門をくぐり、一番最初に感じたのは、学部一、二年時の懐かしい記憶、サークル勧誘のために集まる学生の活気、そして桜の美しさでした。Stanford大学でもキャンパス内に花は咲いており、新学期となる九月には活気がありますが、駒場一、二年生のエネルギー、そして桜の美しさというのはまた別格であり、日本に帰ってきたのだなぁ、との思いを胸に抱きました。
「日本に帰って研究室を立ち上げることが決まったよ」と伝えた時、アメリカの同僚や友人には「おめでとう!」と祝われた反面、「何故アメリカに残らないのか」と問われることもありました。確かに日本と比較してアメリカの方が研究費予算は多く、またfacultyの給料も高いのが通例です。カリフォルニアの、特に夏場の気候は素晴らしく、日本と違って花粉症に悩まされることもありません。しかし一方で、日本の方が食事は美味しく、公共交通機関も発達しています。運転免許センター(DMV)の働かない職員にストレスを溜めたり、月々二十万円以上の家賃に頭を悩ませる必要もありません。また研究面でも、私自身やはり英語よりは日本語のwriting skillの方が高いという点、私の専門の一つである微生物型ロドプシンの基礎研究は昔から日本が非常に強いという点、そして、私の研究に欠かせない高性能のクライオ電子顕微鏡が最近東京大学に導入されたという点は、私の背中を強く押してくれました。そして何より、私が五年間のStanford生活を通じて再認識した「日本の学生、特に東京大学の学生さんというのはやはり非常に優秀であり、Stanford大学の学生さんと比較しても遜色ない」という事実は、これからの駒場における研究や教育生活において、彼らと共に働き、学ぶことに対する期待感を与えてくれました。
私自身は、この四月で齢三十三歳となった若輩者ですが、先進科学研究機構の理念の一つでもある「研究の推進なくして教育充実はありえない」を胸に、駒場の学生さん達、そして先輩となる同僚教員の方々と協力し、研究、教育の両面において邁進していきたいと考える所存です。どうぞ宜しくお願い致します。

(生命環境科学系/先進科学)

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