HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報611号(2019年7月 1日)

教養学部報

第611号 外部公開

<時に沿って> 開かれた駒場の気風

石原 剛

image611_ishihara.jpg今年四月に、比較文学比較文化研究室に准教授として着任しました。着任当初は、研究室の引越しに加え、各種行事や多岐に亘る手続きに追われ、キャンパスの地図を片手に学内を奔走する慌ただしい日々を過ごしました。大型連休を迎える頃になってようやくホッと一息つく余裕ができましたが、そこで気がついたのが、駒場キャンパスに溢れる緑の豊かさでした。新緑が映える美しい木々はさわやかな香気を放ってたたずんでいますし、そういった木立の間から時折聞こえてくる鳥のさえずりは、野鳥好きの私にとって格別のご褒美で、少し耳にするだけでも心洗われる気がします。近所にお住まいの方々も駒場キャンパスの美しさはよくご存知なのでしょう、朝少し早い時間に研究室で授業の予習をしようと大学に足を踏み入れると、愛犬を連れて散歩を楽しんでいるシニアや子ども連れの姿を時々目にします。そういえば、着任前から「駒場はとても風通しの良い職場だよ」といった類いの言葉をよく耳にしていましたが、犬を連れて自由にキャンパスを行き来する人たちの姿に、駒場のそういった外に開かれた気風が象徴的に表れているように感じました。
そういった駒場の開放的な気風は、駒場に職を得る以前から何よりも研究面において最も感じていたことでした。私は、京都大学の大学院を経た後留学をし、その後早稲田大学に職を得ましたが、学生または研究者として正式に東大に所属したことはありません。しかし、専門がアメリカ研究であったことから、駒場にあるアメリカ太平洋地域研究センターの資料は院生の頃から時々利用させて頂きました。同センターは日本有数のアメリカ研究資料を有する極めて重要な施設ですが、東大に所属しない利用者でも利用証さえ作れば、貸し出しが可能となる大変寛容な制度を有しており、学外のアメリカ研究者たちの研究にも大きな貢献をしています。また、駒場といえば、私が最も尊敬する研究者の一人である亀井俊介先生がおられた場所でもあり、大衆文化をも広く視野に収めた亀井先生のアメリカ文化研究、比較文学研究にみられる開放性は、外に開かれた駒場ならでは学問的営為をまさに示されたお仕事であるように思われます。着任前の三月、亀井先生に直接お目にかかって、四月より駒場でお仕事をさせて頂くことをご報告申し上げた際には、「伸び伸びと研究に邁進しなさい」といった趣旨の励ましの言葉をかけて頂き、力を得る思いが致しました。
私のような者が駒場に職を得ることが出来たのも、おそらく出身大学や師弟関係といった縦のつながりにあまり頓着しない駒場ならではの開放的な気風に助けられてのことだと思っています。偉大な大先輩である亀井先生の言葉を忘れずに、まずは伸び伸びと研究と教育に取り組んで参りたいと思います。

(超域文化科学/英語)

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