HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報613号(2019年11月 1日)

教養学部報

第613号 外部公開

グローバルスタディーズ/Global Studies in Asia ─後期教養の国際教育─

エリス俊子

駒場キャンパスで初めて交換留学制度が導入されたのが一九九五年、四半世紀近く前のことになる。専門的な研究目的ではなく、学部時代の一年間を東大ですごす学生たちを受け入れるための体制整備がはじまった。先輩の先生方が各地を回って協定の合意をとりつけ、最初の八つの協定校が決まったあと、先方とのやりとりを重ねて協定書作りを分担し、英語で行う三、四年生向けの専門科目をそろえて新カリキュラムをつくった。共に「若手」だった科学史・科学哲学の橋本毅彦先生と二人で神保町に図書を買いに行ったことなどが思い出される。それでも図書館の日本関係の英語の蔵書はあまりにも少なく、結局は丸善に頼んで、日本で手に入る日本研究関係の書籍を全部運び入れてもらい、図書館の床に何列にも並べて、使えそうにないものだけを抜き出して、あとはすべて注文するといった荒っぽいこともした。リストを精査して発注する時間もない状況だった。そのときに注文した書籍は「留学生図書」として図書館の一角にまとめて置かれていたが、そんな分類の仕方が時代遅れになり、五、六年前だったか、「留学生図書」コーナーはなくなり、すべて一般書架に配されるようになった。
こうしてAIKOM (Abroad in Komaba)短期交換留学プログラムが始動した。初代AIKOM委員長は高田康成先生、次が木畑洋一先生、そして能登路雅子先生、J.ボチャラリ先生も最初期から交換留学制度の整備と運営にご尽力くださった。その当時からずっと留学生の「兄」として彼らを支え、さまざまな業務をこなして現在に至っているのが、現グローバリゼーションオフィス長の君康道先生である。一九九五年に一期生が来日し、教養学部から初めての派遣留学生が海外に飛び立った。当時の学生たちが今や四十代半ばとなり、さまざまな分野で活躍している。五年つづけてうまくいかなければやめるという話もあったが、十周年を記念することができ、二〇一七年には二十二周年を記念する行事を開催し、受入れ・派遣生合わせて百名以上の卒業生が集まってくれた。
二〇一〇年代に入って東京大学は本格的な全学交換留学制度を導入し、USTEP (University-wide Student Exchange Program)が整備されることになる。AIKOM短期交換留学プログラムはUSTEPに移行し、全学の学生に留学の機会が提供されるようになったが、駒場が培ってきた国際教育の伝統は、その後さまざまな展開を見せて今日に至っている。
総合的教育改革の一環として「グローバル化」委員会が置かれ、学生のモビリティの向上とキャンパスの多様化を目標に新たな取り組みがはじまった。「国際研修」はその産物である。そして、後期課程の学生向けに、学融合プログラム「グローバルスタディーズ(GS)」、海外からの学生向けにはGSA(Global Studies in Asia)が立ち上げられた。GS/GSAの学生は、同じ「グローバル教養」授業群の科目を履修し、海外から来ている学生たちと机を並べて勉強する。机を並べるだけでは済まない授業も多い。ほとんどの授業でディスカッションやプレゼンテーションが組み込まれている。PEAK科目との合併も多く、交換留学生と合わせてPEAK生が多数履修している。さらに近年はじまったキャンパスアジア・プログラムで来日している中国と韓国の学生もいる。GS生の必修科目となっている「グローバル教養実践演習」では、海外からの学生とグループを組み、一緒にフィールドワークを行い、学期末のプレゼンテーションに向けて共同でプロジェクトに取り組む。
月一回程度のペースで課外活動もあり、アカデミックな国際交流の場に臨む機会は豊富だ。先学期は、国際社会の現場で活躍するジャーナリスト三名から話を聞くイベントを行い、また二十年前のAIKOM派遣生九名を招いて後輩の学部生に留学とキャリアについて話してもらった。研究職、政府関連機関、NPO、商社勤務など、職種はさまざまだが、学部時代の留学経験が仕事で活かされているケースが多いのに驚いた。学期後半には留学生と在学生がそれぞれ「お薦めの本」を紹介して競い合うビブリオ・バトルも開催し、学生たちは熱く、真剣に、本の紹介をしてくれた。
GS/GSAでは、様々なバックグラウンドを持つ学生が「共に学ぶ場」を提供している。語学力はおのずと鍛えられるが、クリティカルにものを考える力、自分の立場を相対化し、自分の考えを述べ、相手と対話する力を養うことを重視している。多様な価値観をもつ人々と共に働き、共に生活することに伴う課題は日に日に現実味を帯びている。グローバル市民になるとはどういうことか、そして自分に何ができるかを考えてほしい。留学予定の学生にとってはその準備になるし、留学予定のない学生にとっては、世界各地の学生と日常的に交わり、学び合う格好の機会になるだろう。後期教養生向けのGSは、文理を問わず、すべてのコースの学生が登録できる副専攻プログラムである。教養学部でこそ経験できる分野横断型の学びの場に一人でも多くの学生が参加してくれることを願っている。履修の詳細は便覧を見て、質問があれば21KOMCEE WESTのグローバリゼーションオフィスに。毎学期初めにガイダンスも行っているので、ぜひ顔を出してみてください。
URL: http://www.globalkomaba.c.u-tokyo. ac.jp/outbound/gs/index.html

(言語情報科学/英語)

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