HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報613号(2019年11月 1日)

教養学部報

第613号 外部公開

サークルのあり方について、元学生/現教員の立場で思うこと

四本裕子

二十五年前に私が東京大学に入学したときにも、女子が入ることのできないサークルは当然のように存在していた。それが正しいとも思わなかったけれど、特に自分が行動を起こそうとも思わなかった。女子を排除するサークルがあったとしても、自分が関わらなければ、自分が直接影響を受けることもないと考えたからだ。
教員として東京大学で働くことになり、東京大学のサークルのあり方が当時から変わっていないことに驚いた。そして、教員となった今は、「自分が関わらなければいい」とは思えなくなった。東京大学の一教員として、この大学をよりよいものにしたいという気持ちや社会に対する責任を意識するようになったからだ。
なぜサークルの制度は変わらなかったのだろうか?大学生は忙しい。入学時に不満に思った学生も、二十五年前の私がそうであったように、わざわざ自分が声を上げる必要性を感じなかったのかもしれない。東大女子が入ることのできないサークルで活動する男子学生は、歴代そのように運営されてきた制度を自分の代で変えることに抵抗があるのかもしれない。そのようなサークルで活動している学生たちも、別に積極的に女子を差別しようと思ってサークルに加入したわけでもないだろう。なんとなく、今までそうだったから、今のシステムで困ってないから、どうせ二年で本郷に進学するから。そう考えている人が多数なのではないだろうか?
東大の女子学生率が五〇%となれば、このような制度は自然と変わるのだろう。でも、女子学生率を上げるためには、東大が女子学生にとって過ごしやすい環境であることを社会に示す必要がある。サークル問題は、gender equalityの実現とともに議論されるべきものなのだと思う。そもそも、東京大学でgender equalityが実現できていない原因の多くは、政治や社会にある。一方で、大学が輩出する人材の意識が変わらないと、政治や社会を変えるのも難しい。そして、一教員の立場から見ると、本学の教員の意識もまだまだ低いと感じることも多い。他学部の女子がとても少ない研究室に配属された際の歓迎会で、男性の指導教員や研究室の構成員たちに「この中だったら誰が好みか?」と聞かれたという話、「女子にはあの機械を使うのは難しいだろうから、男子学生にやってもらいなさい」と指導教員から指示されたという話も聞いた。私自身も、教員の会議で「女性教職員は子供のお迎えがあるから」という発言を耳にしたこともある。女性教員の割合もまだまだ低い。本学の教員の多くが本学出身者であり、私も含めて、女子学生が一部サークルから排除されているのを黙認してきた側の人間なのだ。
そのような中でサークルのあり方を取り上げて、今の学生に責任があるかのように話を進めるのは、極めてアンフェアである。私自身も、自分が学生だったときに何もしなかったことを棚に上げて、今になってこれを「問題」とする原稿を書いていることを恥ずかしく思う。だからといって、問題をこのまま放置するわけにもいかない。
東京大学の執行部が、入学式で上野千鶴子先生に祝辞を依頼したのは、本格的に大学を変えたいという意志の表れなのだと思う。教授会でも、男女共同参画について学ぶ時間が設けられた。インクルーシブなキャンパス実現のために、大学の設備やサポート体制を整備する動きも進んでいる。サークル問題について松木理事が声明を出したのは、組織としての大学を変える過程で、そのことが改善を要する課題として浮かび上がったからなのだろう。今の学生と比べると、圧倒的に古い教育を受けてきた教職員有志が、それでもこの組織のgender equalityを実現させようと動いている。
サークルは学生自治に基づくものなので、教員が決まりを作るべきものではない。そのあり方を本質的に変えることができるのは、東京大学の学生のみなさんである。この時代に学生生活を送る東京大学の学生の力で、サークルのあり方をよりよい方向に変えていただけないだろうか?「女子が入ることのできないサークルについて、女子が声をあげなければ何も変わらない」というのでは、差別される側に差別解消を押し付けることになってしまう。性別にかかわらず、多くの学生に、あるべき姿について考えて発言してほしいと思う。そして、その時に、「表向きには女子も入れると書くけれど、実際は女子を積極的に勧誘せず、今までどおりの方針を維持する」というように、裏で差別を続けるという形に落ち着くことだけは避けていただきたいと思う。そうなってしまったら、今までの「なんとなく続いていた(悪しき)伝統」から「積極的な女子差別」に形が変わったと見なさざるをえない。
ひとつのサークルは小さなコミュニティであるが、その小さなコミュニティのあり方が、東京大学のサークルとして社会に発信するメッセージは大きい。これを機に、東京大学のサークルのあり方について、学生の皆さんで協議していただけると嬉しい。

(研究科長補佐/生命環境科学/心理・教育学)

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