HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報614号(2019年12月 2日)

教養学部報

第614号 外部公開

駒場Ⅰキャンパスの防災対策

四本裕子

十月二十三日に、本郷キャンパスとの同時訓練となる防災訓練が行われた。駒場Ⅰキャンパスでは、全学生・全教職員を対象とし、二限終了直前に震度六弱の地震が発生したことを想定した訓練を行なった。全学生・全教職員が、緊急地震速報が鳴った場合の初期対応訓練に参加し、その後、十一・十二・十三・三・十五・十六号館・アドバンストラボラトリーおよびアドミニストレーション棟を対象として、一次避難場所への避難訓練が行われた。その後、キャンパスプラザ前にて、消火訓練とVR防災体験車の試乗会が行われた。学生・教職員に協力いただき、訓練は滞りなく終了した。
今年度は、台風十五号が千葉県を中心に甚大な被害を及ぼし、大規模な停電も発生した。また、十月十二日には、大型台風ハギビスが東海・関東地方に上陸し、河川の氾濫などによる多数の死者が出た。今回の防災訓練は地震を想定したものであったが、実際に災害が発生した場合、その状況や規模をあらかじめ予測することは不可能であろう。
そもそも駒場Ⅰキャンパスの防災対策はいかなるものなのだろうか?大きなキャンパスなのだから、何かあっても大学に行けばなんとかなるだろうと考えている人も多いのではないだろうか?
駒場Ⅰキャンパスは、目黒区の「広域避難場所」に指定されている。火事や地震によって地域全体が危険になった場合に避難する場所である。災害によって一定期間の避難生活を行う施設を「地域避難場所(収容避難場所ともいう)」というが、駒場Ⅰキャンパスは「地域避難場所」ではない。広域避難所の駒場キャンパスに避難した後、自宅に戻ることが困難な場合は、近隣の地域避難所に移動することが想定されている。そのため駒場Ⅰキャンパスには、近隣住民が一定期間避難生活を送ることができるほどの備蓄はない。駒場Ⅰキャンパスに備蓄されているのは、学生や教職員が一時的に帰宅困難になった場合に必要となる最小限の水、食糧、トイレに限られている。毎年、かなりの予算が備蓄に割かれているが、その量は避難生活を前提としたものではない。仮に六千人が帰宅困難になった状況を想像してみる。駒場キャンパスの教室の多くは机や椅子が固定されているため、オープンスペースは限られている。毛布等もないため、基本的には着衣のままで夜を明かすことになるだろう。停電が発生した場合には、当然、冷暖房は効かない。命を落とさないために人々が集って努力するという機能は果たすにしても、テレビで見るような地域避難所を想像していると、大きく裏切られることになる。また、キャンパス全体で断水が発生した場合、簡易トイレの用意はあるにしても、数千人が快適に排泄できる環境にはなり得ない。
駒場Ⅰキャンパスが備蓄し災害に備えた訓練をするのは当然のことであるが、それで安心してしまうのではなく、もしもの時に備えて各自でできる対策をとっていただきたい。個々人の備えが重なることで、より災害に強いキャンパスが実現できるのではないかと思う。

(研究科長補佐/生命環境科学/心理・教育学)

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