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最終更新日:2015.09.17

平成27年度 東京大学学部入学式 教養学部長式辞

新入生のみなさん、入学おめでとうございます。難関をくぐり抜けて念願の東京大学入学を果たされたことを心よりお祝い申し上げます。また、ご両親をはじめとするご家族の皆様にも、お祝い申し上げます。

東京大学に入学した学生は、全員が、まず、教養学部に在籍して、少なくとも2年間を駒場キャンパスで過ごします。その2年間は、東京大学では前期課程と呼んでいますが、そこでリベラルアーツ、すなわち、教養教育の基本的な理念に基づく幅の広い一般基礎教育を受け、その間にさまざまな可能性を模索しながら、自分の専門を決めて、後期課程の学科に進学していきます。

この教養学部の2年間は、それをどのように過ごすかによって、その先の長い人生が変わるといっても過言でないほど、大切な期間です。その間にみなさんは、月並みな言い方ではありますが、よく学び、よく遊んでください。そして、その学びと遊びを通して、良き師と良き友を得てください。教養学部は、そのための最高の環境です。みなさんは、それを最大限活用してください。今、教養学部長として申し上げたいことは、この当たり前のことに尽きるのですが、それについて思うことを、少しばかり付け加えたいと思います。

まず、学びについてですが、それは2つに分けられます。一つは、将来の仕事に必要な知識や技能を習得することを目的とした専門基礎としての学び、もう一つは、仕事には直接的には必要とされないものの、人間として、偏りのない幅広い見識と教養を身につけるために必要な学びです。教養学部は、その両方についてバランスのとれた教育を行っています。

専門基礎としての学びは、職業人として自立していくためのものですので、自分の将来の進路が決まれば、誰でも一生懸命取り組みます。東大入試合格という明確な目標に向けて努力し、それを達成されたみなさんですので、専門基礎の勉強については、何の心配もしていません。

しかし、大学に入学したばかりの時点で、将来の進路を決めている人はむしろ少数で、大部分の人はまだ決まっていません。そもそも、自分が本当は何が好きで、何をやりたいのかもわからないという人も少なくないと思います。しかし、それは、まったく心配することではありません。それどころか、むしろ当然のことです。なぜなら、みなさんのこれまでの人生経験も、学んできたことも、ごく限られたものに過ぎないからです。日本の近代教育の根底を築いた偉大な教育者の言葉に、「専門学科と職業の選定は遅いほど良い」とあるくらいです。

教養学部に入られたみなさんは、誰もが、まずこのことを意識したうえで、自分の世界を拡げる努力をしてください。それは、できるだけ広い学問分野に触れ、その中に入り込み、迷いを重ねることです。この努力は、すでに進路を決めたつもりの人にとっても必要です。自分の世界が拡がると、それまで当然のこととして決めていた自分の進路を見直すことになる可能性もあるからです。教養学部は、みなさんのその努力を、さまざまな形で強力に後押しします。それが、教養学部における教養教育です。

教養学部で開講される授業の範囲は非常に広く、その内容はきわめて多彩です。講義の数は毎年2000以上に上ります。それには、物理や化学といったなじみのある科目名とともに、タイトルすら見たことのないようなものもあるでしょう。初めて見るタイトルの科目の内容がみなさんにとって非常に新鮮であることはもちろんですが、よく知っているつもりの科目の授業も、その内容は、高校までとは驚くほど異なることでしょう。ぜひ、その知的興奮を味わってください。

授業に出るにあたっては、その内容を理解することはもちろんですが、教員とのコミュニケーションも、劣らず大切です。東京大学での授業の多くは、その分野の第一線の研究者、すなわちその分野の学問の構築に参画している教員によって行われます。授業のなかで、そのような教員の学問に対する情熱を感じ、その考え方や生きる姿勢を学び取ってほしいと思います。それは教科書を読むだけでは得ることのできない、とても大切なことです。それが、生涯の師との出会いとなり、あるいは、将来の進路を決定する機会となるかもしれません。そのような機会は、もちろん、待っているだけでは決して訪れません。気に入った授業には十分な準備をして出席し、積極的に対話に参加してみてください。同学を志す友人との間に深い友情を育むきっかけともなるでしょう。一つでもそのような授業に出会えることを願っています。

みなさんが教養学部で受ける授業の多くは、教養を身につけるための科目ですが、同じ科目でも、人によってその位置づけは変わります。いずれにせよ、みなさんが教養学部で学ぶ多くの科目は、将来の職業に直結しないという点においては一種の“遊び”のように思われるかも知れませんが、しかし、その遊びこそが、人間として偏りのない幅広い見識と教養の源となるのです。

これまで学業のことばかりお話してきましたが、教養学部の学生生活のもう一つの柱は課外活動です。課外活動は学業ではないので、これは純粋な遊びといえますが、今申し上げた観点に立つと、とても大切な営みであり、教養学部としても重視しています。実際、さまざまなスポーツや文化芸術活動がさかんに行われており、その中には、驚くほど高いレベルに達しているものもあります。親から見ると、子供は勉強するために東大に入ったはずなのに、課外活動にばかりうつつを抜かしていると思われるかもしれませんが、それも教養学部における広い意味での教育の一環ですので、ご心配は無用です。

課外活動を重視するのは、好きなことに没頭するときに得られる高揚感を体験し、それが生きる喜びそのものといえることを知ってほしいからです。また、好きなことに徹底的に取り組み、努力していけば、やがてそれは、自分だけではなく、他の人にも喜びをもたらせるようになることもわかるでしょう。たとえば、スポーツや音楽演奏は、最初のうちはなかなかうまくできません。それでも、困難を一つ一つ克服してゆくのはとても楽しいものです。努力を重ねてある程度上手にできるようになってくると、自分だけでなく、それを見たり聴いたりしてくれる人にも楽しんでもらえるようになります。これは、他の人との間で深いレベルのコミュニケーションが成立し、それによって喜びが生まれることを意味しています。音楽の演奏であれば、自分が奏でている音楽がこんなにも美しいものなのだという思いが聴き手に伝わり、それが感動を呼び起こすのだといえるでしょう。

自分の思いが深いレベルで他者と共有される喜びは、創造を伴うあらゆる営みに共通します。自然科学や人文科学の研究の喜びも、自分の発見したことの面白さを伝え、それを共有してもらえることにあります。したがって、課外活動としてよく遊ぶことも、よく学ぶことに劣らず大切なのです。

しかも、課外活動を通して得られる友人との間には、共通の趣味を介しているだけに、とても強固な結びつきが生まれます。生涯を通しての友人も得られるでしょう。指導者に師事すれば、その先生とも強い結びつきが得られます。

みなさんが、教養学部における学びと遊びを通して、良き師と良き友に巡り会うとともに、自分が本当に喜びをもって深めてゆけるものを見出して、その道に進むに十分な基礎を養われることを心から願って、私の式辞といたします。

平成二十七年四月十三日

東京大学教養学部長 小川桂一郎

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